研究課題/領域番号 |
16K08911
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
吉原 達也 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), その他 (80419613)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 2型アルデヒド脱水素酵素 / ニトログリセリン / ケルセチン / 遺伝子多型 / 血管内皮機能障害 |
研究実績の概要 |
ニトログリセリン(GTN)の持続投与は、酸化ストレスや血管内皮障害の発生、心血管イベントの増加を引き起こすとされる。2型アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)はエタノールの代謝産物であるアセトアルデヒドを代謝する酵素であり、ALDH2にはその活性が欠損する遺伝子多型*2(Glu504Lys)があるため、その遺伝子多型は飲酒の可否を決定する因子として知られている。 ALDH2は抗酸化作用を持つことが知られ、ALDH2活性が低下した状態では血管内皮機能障害や虚血時の組織障害が増悪すると報告される。我々は、ALDH2遺伝子変異者ではGTN投与により酸化ストレスと血管内皮障害が起こりやすく、さらに抗酸化作用を持つHMG-CoA還元酵素阻害薬の併用がその血管内皮障害を抑制することを報告してきた。そこで他の抗酸化作用を持つ物質において、GTNによる血管内皮機能障害を抑制する効果を持つかどうかを検証することにした。 ケルセチンは天然フラボノイドの一種であり、血管内皮機能を改善することが示されている。そこで本臨床試験では、ケルセチンがGTNによる酸化ストレスと血管内皮機能障害へ及ぼす影響について検討する。そして、将来的には硝酸薬投与による有害事象を軽減し、患者予後改善につなげたい。 現時点までに、ケルセチンにより酸化LDL(マロンジアルデヒドLDL)が低下することを確認した。また、被験者募集についてALDH2遺伝子変異保持者の募集を開始できる体制を整えた。その他、血液検査実施体制を確立し、試験実施計画書及び同意説明文書を作成した。あとは倫理委員会の承認を受ければいつでも試験が開始できる体制が整っている。 ただし、本年4月より臨床研究法が施行され、本試験が健康成人を対象としているため特定臨床研究に当たるのか、認定倫理審査委員会へ審査を依頼する必要があるかなどの子細が不明であり、状況を確認している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究代表者が、申請時に所属していた九州大学大学院医学研究院臨床薬理学分野から福岡みらい病院臨床研究センターへ平成28年度より異動になった。試験実施は、当初の計画通りに福岡みらいで実施する予定であるが、研究責任者の所属が変わったことにより、九州大学臨床薬理学分野の共同研究員として、同センターと共同で臨床試験を実施することとなり、そのため新しく研究体制の構築と役割分担の調整が必要となった。また、現所属先の業務に慣れる必要があり、試験の準備が遅れることになった。 平成29年度は、試験の準備として、具体的に血液検査をどのように行うかについて体制を確立した。また、ケルセチンの酸化ストレスへの影響について、どの測定方法がその影響をとらえることができるかを検討し、酸化LDLが適当と判断した。さらに、必要書類の作成や被験者募集や臨床検査の実施についての手順を再検討し、試験実施における役割の調整、費用の再見積りを行った。さらに、遺伝子解析が必要となるため、解析方法や役割分担、費用の算定、個人情報の保護方法についての打ち合わせを九州大学臨床薬理学分野の研究協力者と検討した。 以上の検討に基づき試験実施計画書を作成した。試験実施は、福岡みらい病院臨床研究センターで行うが、同センターは臨床試験を行うための専門施設であり、必要なスタッフ、機器、ノウハウを十分に備えており、試験を開始すれば実施にかかる時間は比較的短時間で済むと考えられる。 ただし本年4月より臨床研究法が施行され、本試験が健康成人を対象としているため特定臨床研究に当たるのか、認定倫理審査委員会へ審査を依頼する必要があるかなどの子細が不明である。認定倫理審査委員会に審査依頼する場合は、依頼方法、費用、審査期間などの問題が発生するため、現在状況を確認している。
|
今後の研究の推進方策 |
現在、臨床研究法の子細について確認中であり、倫理審査委員会をどこに依頼するか決定したら、速やかに依頼する。倫理委員会の承認を受けた後、UMIN臨床試験登録システムへの登録を行う。また、臨床研究保険へ加入する。 以上の準備が完了したら、試験を実施する。試験では、ALDH2野生型及びホモ変異型保持者を対象として、まず事前スクリーニング検査を行い基礎疾患の有無の確認や血液検査データに異常がないことを確認する。GTN25mg/日を7日間経皮的に投与し、その前後に血管内皮機能の評価及び酸化ストレス度をチェックする。血管内皮機能の評価には、血流依存性血管拡張反応(flow-mediated dilation: FMD)を用いる。ケルセチン1000mg/日を併用し、影響があるかどうかを検討する。これを2剤2期のクロスオーバー法にて実施する。休薬期間は2週間以上を予定している。GTNは頭痛を起こす割合が高く、被験者保護のためロキソプロフェンの併用を許可する。 実際に試験実施を開始したあとは、3ヶ月ほどで試験を終了できると考えている。 その後、試験データの解析を行い、国内外の関連する学会および論文として成果を発表する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度より研究責任者が異動になり、主な勤務先が申請時に所属していた九州大学大学院医学研究院臨床薬理学分野から福岡みらい病院臨床研究センターに変更になった。試験は、当初の計画通りに福岡みらい病院臨床研究センターで実施予定であるが、研究責任者の所属が変わったことにより、九州大学臨床薬理学分野の共同研究員として、同センターと共同で臨床試験を実施することとなった。研究責任者が新しい職場に慣れ、新しく研究体制の構築と役割分担の調整を行うのに相当の時間が必要であった。その後、必要書類の作成や被験者募集や負担軽減費の支払い方法、臨床検査など、試験実施手順について再検討を実施してきた。また、試験実施における役割の調整、諸費用の再見積りが合わせて必要であった。さらに、本臨床試験での適切な酸化ストレス測定方法の検討が必要であった。以上のことより、申請時に考えていたよりも臨床試験の準備段階に時間を要したため、計画時よりも進捗が遅れている。そのため、次年度への繰越金が発生した。 臨床試験は、その準備段階に時間を要するが、試験を開始したあとは、血液検査費用や薬剤の購入費用、施設使用料、被験者への協力費の支払い、臨床研究保険費など必要な費用が短期間に発生することになるため、今年度の試験実施で使用させて頂く予定にしている。
|