ニトログリセリン(GTN)は持続投与により血管内皮機能が低下する問題があり、酸化ストレス増加が原因の1つとされる。2型アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)は抗酸化作用により心血管保護作用を有するとされるが、ALDH2活性はGlu504Lys (*2)多型により著しく低下する。以前我々は、ALDH2*2アレル保持者では野生型(*1/*1)保持者と比較してGTN持続投与後に血管内皮機能がより低下し、HMG-CoA還元酵素阻害薬との併用によりALDH2多型間で差を認めなくなることを報告した。しかし、スタチンの抗酸化作用によるのかどうかははっきりしなかった。ケルセチンはフラボノイドの一種で強い抗酸化作用を持つ。そこで本研究では、ケルセチンがGTN投与後の血管内皮機能へ及ぼす影響について調査した。 倫理委員会の承認と臨床試験登録(UMIN000033639)の上、文書同意を得た50名の日本人健康成人男性に事前検査を実施し、最終的にALDH2*1/*1:17名、*2/*2:7名に対して、クロスオーバー法にて、GTN経皮単独投与もしくはケルセチン1000mg/日併用投与を7日間行った。投与前後に血管内皮機能としてflow-mediated dilation(FMD)を、酸化ストレスとしてMDA-LDLを測定した。 投与前と比較してGTN単独投与後のFMD値の変化は、ALDH2*1/*1保持者と比較して*2/*2保持者では有意に低かった。一方、ケルセチン併用後のFMDの変化に*1/*1と*2/*2保持者間での差はなかった。MDA-LDL値は、GTN単独及びケルセチン併用投与後ともほとんど変化しなかった。 ALDH2*2/*2保持者ではGTN持続投与後の血管内皮機能がより低下することが再確認できた。ケルセチン併用はその低下を改善したが、そこには抗酸化作用以外のメカニズムも関与すると考えられた。
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