研究課題/領域番号 |
16K08912
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
塚元 和弘 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(薬学系), 教授 (30253305)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | クローン病 / インフリキシマブ / 薬剤応答性遺伝子 / 治療効果消失の機序解明 / 遺伝子診断 / ゲノム創薬 |
研究実績の概要 |
クローン病(CD)の治療薬であるインフリキシマブ(IFX)の短期(10週後)と長期(1年後)の治療効果に患者間で個人差を認める。この機序解明と治療効果を予測できるバイオマーカーを同定するために,3つのシグナル経路(TLR/IL-1/CD40)から7個の候補遺伝子を選出した。CD患者127名を対象とし,IFX治療開始10週後と1年後の治療効果の有無で治療感受性群と治療抵抗性群に分けた。候補遺伝子内の計44個の一塩基多型を用いて遺伝子型を決定した。そして,両群間で一塩基多型の出現頻度の有意差検定を行った。 IFX治療開始1年後において,IL1RNのrs315929でC/C genotypeを持つ患者は約10.7倍の治療感受性を示した(P = 0.007)。同遺伝子多型をバイオマーカーに用いた遺伝子診断では,特異度97.1%,陽性的中率95.2%と高く,感度24.4%,陰性的中率34.7%と低かった。 本研究により,IL1RNはIFXの薬剤応答性遺伝子であることが初めて示唆された。炎症抑制作用を示すIL1RNのrs315929でC/C genotypeを持つ患者は,IL1シグナル経路の活性化が抑制され,治療感受性を示すと考えられる。また,同遺伝子多型を遺伝子診断に応用した場合,特異度と陽性的中率が高いことから,IL1RNのrs315929でC/C genotypeを持っていない患者はIFXの治療効果が1年以上続くことを極めて高い確率で予測できることが示唆された。今後,IL1RNの機能解析を進め,IFXの治療感受性および治療抵抗性を示す病態を分子レベルで解明し,CDに対する新規分子標的治療薬の開発に繋げたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
3年間で36個の候補遺伝子を解析し,そのうち10個のインフリキシマブ(IFX)治療感受性および抵抗性遺伝子(薬剤応答性遺伝子)を同定したこと,4つのシグナル経路を満遍なく,かつ可能性の高い遺伝子から優先順位をつけて解析している。 今年度に7個の遺伝子(44個の一塩基多型)を解析し,統計学的に有意差を認めた薬剤応答性遺伝子として,IFX治療開始1年後で1個を同定した。極めて有効なのは,有意差を認めた遺伝子多型をバイオマーカーとして遺伝子診断に応用した場合,高い確率でIFXの治療効果が1年以上続く患者を選別できることである。治療開始前に患者にIFXの治療効果を説明する際に,この遺伝子診断の結果は患者にも医師にも安心感と希望を与えるものである。 だが,研究代表者が本学の教学担当理事および教務担当副学長に就任したために,研究の遂行速度が低下し,本プロジェクトの完遂を翌年度に延期した。
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今後の研究の推進方策 |
着目したシグナル経路上の残りの候補遺伝子に対して,可能性の高い遺伝子から優先順位をつけて多型解析を継続し,IFXの治療効果に関する複数の治療感受性および抵抗性遺伝子を同定する。 同定した複数の治療感受性および抵抗性遺伝子の遺伝子多型がお互いに独立して治療感受性や抵抗性に寄与しているかを多変量解析(多項ロジスティック回帰分析)で検証する。続いて,独立していた遺伝子多型を複数組み合わせてバイオマーカーに用いた遺伝子診断を行い,相対的危険度をオッズ比で表す。そして,10週後あるいは1年後のIFXの治療効果や治療効果消失を予測でき,且つ感度,特異度,陽性的中率の高い遺伝子診断法を開発する。そして,短期的と長期的予測を踏まえて患者に最適な治療法が選択できる治療戦略を示す。 さらに同定した治療感受性および抵抗性遺伝子に対して,HaploRegやGENCODEやGWAVAのデータベースを用いてin silico解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者が本学の教学担当理事および教務担当副学長に就任したために,研究の遂行速度が低下し,本プロジェクトの完遂を翌年度に延期した。 今後,着目したシグナル経路上の残りの候補遺伝子に対して,可能性の高い遺伝子から優先順位をつけて多型解析を継続し,IFXの治療効果に関する複数の治療感受性および抵抗性遺伝子を同定する。
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