研究課題
非アルコール性脂肪性肝炎の病態形成に12-リポキシゲナーゼがどのように関わるか、そのメカニズムの解明を目的とした研究の第一段階として、本年度はまず、NASHモデルマウスの作成とその評価を行った。一週間予備飼育を行ったc57blマウスにメチオニン・コリン欠損食(MCD食)を投与すると、2週間で形成された脂肪肝の脂肪滴は4週以降は減少傾向が見られたが、NASHの代表的な炎症マーカーであるTNF-αのmRNA発現量はMCD食摂取2週目からコントロール群の約2倍に発現が上昇し、6週目には4倍、8週目には5倍と、さらなる発現上昇がみられた。肝臓のパラフィン切片の HE染色において、MCD群では炎症細胞の浸潤が観察された。また、膠原繊維を染色するシリウスレッド染色において、MCD食摂取6週目では実質部分の一部で赤色に染色され、8週目では肝臓実質の広い面積が赤色に染色され、肝臓の広い範囲で線維化が起こっている様子が観察された。モデルマウスの肝からサイトゾルを調製し、12-リポキシゲナーゼ活性を測定したところ、コントロールではほとんど検出できなかったが、MCD投与開始後8週目のマウス肝では活性にバラツキはあったものの、有意な酵素活性が検出された。12-リポキシゲナーゼにはいくつかのアイソザイムが知られているが、リアルタイムPCRでは白血球型酵素のmRNAの上昇が認められ、過去の論文から白血球型であると予想していた。しかし、アイソザイム特異的な抗体による酵素活性の免疫沈降を行ったところ、血小板型の酵素に対する抗体で酵素活性が免疫沈降し、白血球型の酵素に対する抗体での免疫沈降は見られなかった。また、モデルマウス肝の細胞を密度勾配遠心で分画して得られたKupffer細胞を主に含む画分からサイトゾルを調製しWesternで解析したところ、血小板型酵素の抗体によって検出されるバンドが見られた。
2: おおむね順調に進展している
当初白血球型12-リポキシゲナーゼがNASH病態形成に関与するとの想定で実験を開始したが、実際に上昇していたのは血小板型12-リポキシゲナーゼであった。本酵素については、活性上昇を説明できるほどのmRNAの発現上昇が認められておらず、酵素の活性化の可能性や血小板型酵素に抗原性が類似した新規の酵素の存在も視野に入れながら解析を進める必要が生じたため。
まず血小板型12-リポキシゲナーゼがKupffer細胞に存在することを証明するために、コントロールマウスとMCDマウスからそれぞれKupffer細胞、腹腔マクロファージならびに血小板を調製して、抗血小板型ならびに抗白血球型12-リポキシゲナーゼ抗体による免疫染色を行う。次に、MCDマウス肝における12-リポキシゲナーゼ活性上昇機構の解明のため、酵素活性を阻害物質を想定した添加回収試験やコントロールマウス肝より調製したサイトゾルを用いた免疫沈降、さらに免疫沈降したタンパク質からのシャペロン蛋白の単離、抗リン酸化チロシン抗体を用いて活性化機構の解明、血小板型12-リポキシゲナーゼに抗原性の類似した新規酵素の同定などを目指す。
病態に関与する12-リポキシゲナーゼが白血球型ではなく血小板型であることが判明したため、実験計画の変更を余儀なくされたため。
血小板型酵素の局在と酵素活性上昇機構の解明の一部に使用する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
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