研究課題
NASHの進行に関わるリポキシゲナーゼ分子種としては、これまで白血球型12-リポキシゲナーゼが着目され研究されてきたが、申請者らは昨年度までの研究で、NASHモデルマウスで上昇する12-リポキシゲナーゼのアラキドン酸生成物として、12-ヒドロペルオキシ酸以外に、白血球型酵素の生成物に特徴的な15-ヒドロペルオキシ酸が含まれていないことを見出した。さらに、NASHモデルマウスの肝サイトソルで上昇する12-リポキシゲナーゼ活性が、白血球型12-リポキシゲナーゼを認識しない抗血小板型12-リポキシゲナーゼ抗体で免疫沈降することを見出し、NASHモデルマウスの肝で上昇する酵素が血小板型の12-リポキシゲナーゼであることを突き止めた。本酵素の比活性が極めて低かったことから、本年度は、この酵素が肝臓にわすかに存在すると考えられる血小板に由来するのかどうかを明らかにする目的で、肝組織を構成する細胞を密度勾配遠心法で分画しての抗血小板型12-リポキシゲナーゼ抗体を用いたウェスタンブロッティングを行ったところ、本酵素が主に肝非実質細胞に存在することが示された。さらに同じ抗体を用いた免疫染色により、本酵素が血小板ではなく肝星細胞に存在することを明らかにした。興味深いことに、血小板型12-リポキシゲナーゼのmRNAはコントロールマウスにも発現しており、さらにウエスタンブロットにより、酵素蛋白もコントロールマウスに発現していることが示された。この酵素のNASHにおける活性化機構の解明と、その病態生理学的な役割の解明が今後の課題となる。
2: おおむね順調に進展している
NASHモデルマウス肝で上昇している12-リポキシゲナーゼが白血球型ではなく血小板型であることが判明したが、血小板型12-リポキシゲナーゼは転写レベルのみならず酵素活性のレベルで調節を受けている可能性が示唆され、また、血小板型12-リポキシゲナーゼが局在している細胞が、肝線維化において中心的に関わる肝星細胞であることが明らかとなり、新たな研究の方向性が定まったため。
1.リポキシゲナーゼの活性化機構肝臓の可溶性画分にはグルタチオンペルオキシダーゼなどのヒドロペルオキシド消去系が存在するが、一般にリポキシゲナーゼの活性化には少量のヒドロペルオキシドが必要である。そこで、コントロールマウスの肝より調製した可溶性画分の血小板型12-リポキシゲナーゼを免疫沈降して活性が現れるかどうかを確認し、さらにグルタチオンぺルオキシダーゼ阻害剤を加えて活性が現れるかを確認する。さらに、それぞれのマウス肝の可溶性画分のグルタチオンペルオキシダーゼ活性を測定する。また、血小板型12-リポキシゲナーゼにはリン酸化修飾が起こる可能性を示唆する実験結果が海外で報告されている。そこで、コントロールマウス肝の可溶性画分を免疫沈降して得た血小板型12-リポキシゲナーゼをホスファターゼで処理して活性が上昇するかどうか調べる。さらに、このリン酸化酵素を同定し、NASHモデルマウス肝での発現レベルと比較するとともに、その調節機構を調べる。2.肝星細胞に発現する血小板型12-リポキシゲナーゼの役割の解明12-リポキシゲナーゼタンパクを持たないヒト肝星細胞株TWNT-1に、ヒト血小板型12-リポキシゲナーゼ遺伝子を導入して、安定形質発現株を得る。この細胞において発現量が変化している遺伝子を、本酵素の遺伝子を導入していないコントロール細胞とDNAマイクロアレイを用いて網羅的に比較することにより同定し、血小板型12-リポキシゲナーゼの肝星細胞における役割を解明する。
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Physiological Reports
巻: 6 ページ: e13582~e13582
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J Clin Biochem Nutr.
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