研究課題/領域番号 |
16K08917
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
小口 勝司 昭和大学, 医学部, 名誉教授 (50129821)
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研究分担者 |
小山田 英人 昭和大学, 医学部, 講師 (50266160)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 悪性高熱症 / リアノジン受容体1型 / 培養細胞株 / 細胞内Ca2+イメージング |
研究実績の概要 |
悪性高熱症(malignant hyperthermia、MH)患者の臨床症例に報告された細胞内カルシウム(Ca2+)放出チャンネルであるリアノジン受容体1型(RyR1)遺伝子変異体をテトラサイクリン(Tet)の添加により発現誘導できる培養細胞株を樹立して、対照コントロールとなり得る野生型(wt)RyR1を介した細胞内Ca2+動態と比較するためにhigh contents screening(HCS)による解析するシステムの構築を目指した。 1. 以前に作成した「カセット構造化したRyR1cDNA」を用いて、約5000アミノ酸残基コードするRyR1cDNAのアミノ基末領域11か所と中央部14か所(合計25か所)にアミノ酸配列の変異をコードするMH型RyR1遺伝子変異体クローン(合計25種)を構築した。 2.上記の各MH型RyR1変異体を薬物誘導性に発現させることが可能な培養細胞株をFlp-In T-Rexシステム(Thermofisher Sci社)として機能するHEK293細胞とTet-Expressシステム(Takarabio-Clontech社)として機能するCHO細胞を用いて樹立した。 3. 樹立したMH変異型RyR1発現する細胞株(HEK293細胞、CHO細胞)における細胞内Ca2+動態を顕微鏡一体型ハイコンテンツスクリーニングシステム(HCS、Image XpressMICRO、モレキュラーデバイス社)を用いて、Ca2+蛍光指示薬fura2により細胞内Ca2+イメージングによる画像解析を行った。 4. 同時に、細胞内Ca2+貯蔵部位である小胞体内部のCa2+濃度もイメージングするためにCa2+感受性の蛍光蛋白質を強制発現さることにより、RyR1のCa2+放出チャンネル活性のモニタリングも行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の基盤となる野生型RyR1(wtRyR1)をテトラサイクリン(Tet)誘導性に発現する培養細胞の樹立に続いて、MHに関する症例報告等に記載されたRyR1のアミノ基末領域11か所と中央部領域14か所の変異部位を各々コードするRyR1cDNA変異体(25種類)を作製してTet誘導性にMH型RyR1変異体を発現させられる培養細胞株を樹立することができた。さらに、樹立した各種Tet誘導性RyR1発現細胞株(HEK293細胞、CHO細胞)にCa2+蛍光指示薬fura2を負荷して、顕微鏡一体型HCS(モレキュラーデバイス社)を使って細胞内Ca2+動態のイメージング解析を行ったところ、MH型RyR1を発現した各種の細胞においてwtRyR1に比べて、RyR1刺激薬であるカフェインに対する感受性の明らかな上昇がみられた。さらに、Ca2+感受性の蛍光蛋白質を強制発現さることにより、細胞内Ca2+貯蔵部位である小胞体内部のCa2+濃度も同時に観測してRyR1のCa2+放出チャンネル活性のモニタリングをすることも可能となった。これらの結果、25種類のMH型RyR1変異体を発現する培養細胞株はMH疾患モデル細胞になり得ることが示唆された。但し、薬物を添加して測定する際に、特にHEK293細胞を用いた場合には、HCS機器から自動的に添加される溶液の流速(液圧)により細胞が培養ディッシュから剥離してしまい観測が困難になる場合が多かった。この問題の克服のために、比較的培養ディッシュへの接着能が強いCHO細胞を使用すると細胞内Ca2+動態のイメージング解析に改善がみられた。しかし、CHO細胞におけるRyR1発現の制御に用いているTet-Expressシステム(Takarabio-Clontech社)が、2017年11月に突然に販売終了となった。
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今後の研究の推進方策 |
これまで樹立したHEK293細胞(FRT部位を有する)から、培養用ディッシュ接着能が強く細胞内Ca2+動態のイメージング操作に適すると考えられるCHO細胞(FRT部位を有する)に移行する予定であるが、小胞体内部のCa2+濃度をイメージングできるCa2+感受性の蛍光蛋白質を強制発現させて観測したところ、細胞内Ca2+貯蔵部位である小胞体自体がCHO細胞ではHEK293細胞に比べてかなり少ないことが示唆された。したがって、CHO細胞では、RyR1のCa2+放出チャンネル活性を詳細にモニタリングすることは難しいと思われる。また、CHO細胞におけるRyR1発現の制御に用いているTet-Expressシステム(Takarabio-Clontech社)が、2017年11月に突然に販売終了となり入手できない状態となったために、新たなMH型RyR1変異体を発現させるCHO細胞株の樹立とそのRyR1の発現誘導の制御が難しくなってしまった。現在、TakaraBio-Clontech社を通じて販売元に問い合わせを継続中であるが、今後はCHO細胞におけるRyR1発現の制御が可能な新たな代替法も検討する。また、HCS機器による細胞内Ca2+動態のCa2+イメージングの際に使用する側面が光不透過(ブラック側面)で底面だけが蛍光を透過する透明ガラス底の培養用マルチ(96穴等)プレートを使用しているが、底面が一定の平面でない製品がロットが頻発するので、販売会社と相談してより良いロット番号の製品を揃えて実験を進めていかなければならない。上述と同時に以前の研究課題(H9-10)で構築した「カセット構造化したRyR1cDNA」を利用してMHの症例報告にある中で実験的に未確認のRyR1遺伝子の変異体を順次作製して追加し、理化学研究所バイオリソースセンターへの委託に向けて準備をする。
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