研究実績の概要 |
腸内細菌叢の正常化を目的に炎症性腸疾患で臨床応用が始まった便微生物移植(Fecal microbiota transplantation, 以下FMT)による消化管粘膜保護効果と、 種々の正常細胞に対し保護活性作用のある5‐アミノレブリン酸(5-ALA)を組み合わせ、抗がん化学療法による重大な有害事象の1つである薬剤性消化管粘膜障害に対する新規支持療法の確立を目指すことが本研究の目的である。2年目までに、FMT研究の根幹をなすネズミを用いた動物実験遂行が困難な当該研究機関の状況に直面したため、動物実験環境を模倣するためにマウスの小腸上皮より分離培養したオルガノイドを用いて下記実験を行う方針とした。 抗悪性腫瘍薬イリノテカン(CPT-11)の代謝産物であるSN-38が消化管粘膜障害を惹起することが知られおり、SN-38による消化管粘膜障害に対し5-ALA投与による腸管上皮細胞障害保護効果についての検討を3年目に行った。 5-ALAは酸化ストレスに応答する生存シグナル分子であるheme oxygenase-1(HO-1)発現を誘導することが既報されており、抗悪性腫瘍薬に対する5-ALAによるHO-1誘導が腎尿細管上皮保護をもたらすことが報告されている。正常腸管上皮細胞においても、5-ALAによるHO-1誘導が認められ、SN-38投与下において、5-ALA非存在下では発現抑制されるHO-1が、5-ALA投与により発現維持されることを確認した。 マウス小腸上皮より分離培養したオルガノイドを用いて同様の5-ALA投与を行うと、オルガノイド構成細胞にHO-1発現が誘導された。SN-38をオルガノイドに投与すると、オルガノイド構成細胞に細胞死シグナルが発現されるが、5-ALA共投与下ではオルガノイドに細胞死がみられず、5-ALA投与によりHO-1発現が誘導されることで、抗悪性腫瘍薬による腸管上皮細胞死が抑制されることが示唆された。 以上の結果を纏めた成果を論文作成し、近日中に報告予定である。
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