研究課題/領域番号 |
16K08922
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研究機関 | 崇城大学 |
研究代表者 |
大栗 誉敏 崇城大学, 薬学部, 准教授 (70346807)
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研究分担者 |
安楽 誠 崇城大学, 薬学部, 准教授 (60398245)
中村 仁美 崇城大学, 薬学部, 助教 (60510691)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | Fab / 抗体医薬 / 安定化 |
研究実績の概要 |
近年、抗体医薬品が盛んに開発され、世界医薬品売上高ランキングの上位を占めている。本研究では、ヒトモノクローナル抗体医薬品アダリムマブの抗原結合部位を含んだFabをターゲットとし、アミノ酸変異導入によって高度に安定化し、機能性を高めた改変Fabの作製を目的とする。本年度では、①アダリムマブFabの酵母による発現系構築,②ヒトFab定常領域での分子間SS結合導入変異デザインと変異体の調製,③Fab変異体の安定性の評価を実施した。 ①について、PCRによりアダリムマブFabの遺伝子を全合成し、Fab-H鎖、L鎖の遺伝子を共発現ベクター(pPICz)に組み込み、酵母染色体へ相同組換えにより挿入し、高発現株をスクリーニングにより得て発現系を構築した。大量発現後に精製した結果、約20mg/Lの収率で精製品が得られた。また抗原であるヒトTNFαについても遺伝子を全合成し、発現系の構築に成功した。 ②について、報告されているFabの立体構造を元に、構造モデリングソフトを用いて、Cys変異候補部位を推定し、分子間SS結合形成による安定性の効果を計算した。その結果、9個の変異体が候補として選出され、それぞれCys導入変異体を作製した(No1~No9変異体)。これらの変異体は、導入部分でSS結合が形成されていることを解析しやすいように、既存のC末端に存在する分子間SS結合を、Cys→Ala変異により欠損させた。 ③について、9個の変異体のうち、スクリーニングで発現量の多かったNo5変異体の大量培養精製を実施した。SDS-PAGEにより導入した部位でのSS結合形成が確認された。つまり新規分子間SS結合の導入に成功した。またNo5変異体は耐熱性試験によって、野生型よりも安定化していることも明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、①アダリムマブFabの酵母による発現系構築,②ヒトFab定常領域での分子間SS結合導入変異デザインと変異体の調製,③Fab変異体の安定性の評価の計画を立て、全て予定通りに実行した。成果としても①では、アダリムマブFabの酵母発現に成功し、抗原であるヒトTNFαの大腸菌による発現も成功した。これによりアダリムマブFabの変異体作製と活性評価が可能となった。変異体のデザインもプログラム計算により候補が上がり、変異体を作製することが出来た。そのうちの1つを大量調製し解析したところ、新規分子間SS結合の導入に成功し安定性の上昇も明らかとなった。H鎖L鎖の会合面は、X線結晶構造を見ると大きな空間があり、多くのアミノ酸が密接に相互作用しているものではない。従って、分子間SS結合の導入は、困難であり、これまでに報告された例はない。No5変異体が成功したことによって、この研究は計画通り進むものと期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度では、平成28年度計画②-③を引き続き継続し、安定化Fabを作製していく。また、以下の計画も進めていく。 ④動物実験によるFab変異体の抗原性の評価:平成28年度計画②-③により安定化した変異体をマウスに腹腔投与し、1週間毎に眼窩採血し続けながら30日間飼育する。血清中のヒトFabに対する抗体量をELISAによって測定する。 ⑤動物実験によるFab変異体の体内貯留時間の評価:安定化Fabは、生体内で細胞マトリックスあるいは血管内皮細胞等のプロテアーゼに分解されにくく、野生型よりも体内貯留時間が延長することが予測される。そこでFab修飾体をマウスに皮下注射を行った後に採血を行い、血中濃度をELISAにより測定する。これを野生型と比較して評価する。動物実験評価の経験が豊富な安楽准教授と連携協力しながら実施する。 ⑥Fabの長期保温による物性評価:Fab変異体をPBSに溶解し、37℃の長期インキュベーションを行う。連携研究者の植田教授らはマウスリゾチームを37℃で8週間インキュベーションし、アミノ酸の不可逆的な劣化反応が起こる事を同定している(UenoらCMLS.2005.62.199-205)。Fab変異体において長期にインキュベーションし、安定性・結合活性について調べる。結合活性については、ヒトTNFαに対する結合を解析し、野生型との比較を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
酵母による目的タンパク質の発現精製を行っていたが、予定よりも大量発現へ進める変異体が少なく、培養精製にかかる試薬・カラム等の購入を減らしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は多くの変異体を作製する計画であり、その培養精製の試薬やカラム等を購入する。
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