研究課題/領域番号 |
16K08924
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
笠井 慎也 公益財団法人東京都医学総合研究所, 精神行動医学研究分野, 主席研究員 (20399471)
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研究分担者 |
菊池 尚美 公益財団法人東京都医学総合研究所, 精神行動医学研究分野, 主席研究員 (30450589)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 自閉症スペクトラム / 結節性硬化症 / 中間表現型 / 脳形態変化 / タンパク質合成 |
研究実績の概要 |
12週齢Tsc2ヘテロ遺伝子欠損(Tsc2(+/-))マウスの脳の湿重量は、野生型と比較して雌雄共に有意に亢進していた。亢進幅は雄で4.0%、雌で2.5%であり、この差は脳において雌雄差が確認されている脳の細胞分布の差異による可能性が示唆された。4週齢Tsc2(+/-)マウスにおいては脳湿重量に有意差は見られなかったものの、亢進している傾向にあることから、既に4週齢においてはTsc2(+/-)マウスの脳に形態変化が引き起こされ始めていると考えられる。39週齢Tsc2(+/-)マウスの脳湿重量は野生型のそれと比較して有意な差異が見られず、これは12週齢以降にTsc2(+/-)マウスの脳湿重量が野生型ほど増加しなかったことによる。自閉症スペクトラムでは、成人期以降ではそれまでに見られた脳周囲長や脳体積の亢進が見られなくなることが報告されており、対応週齢は不一致であるものの、Tsc2(+/-)マウスはヒトにおける自閉症スペクトラムの脳形態変化に良く対応していることを明らかにした。 また、その他の主要組織、胸腺、心臓、肺臓、肝臓、脾臓、腎臓、精巣については、39週齢Tsc2(+/-)マウスの心臓においてのみ湿重量に有意な差異が見られた。Tsc2(+/-)マウスは全身性にTsc2遺伝子がヘテロ欠損しているが、このように組織によって湿重量変化が異なることから、Tsc2遺伝子がコードするTuberinが調節するmTOR系は、組織によりその活性が異なり、本研究結果からは特に脳および心臓で重要な働きを果たしていると考えられる。 小動物MRIによる脳の形態変化の解析では、特に小脳の体積が亢進していることが明らかとなった。Tsc2(+/-)マウスの小脳では、小脳皮質の体積が亢進し、逆に小脳髄質の体積が減少していた。現在、解析検体を増やして統計解析による最終的な評価を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の予定であったTsc2(+/-)マウスにおける脳湿重量変化および脳形態変化の詳細な解析は、おおよそ完了している。このことから、本研究は当初の予定通り進歩していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、Tsc2(+/-)マウスの脳形態変化という「中間表現型」の原因である、あるいは関連する脳神経病態とその時期を明らかにする。具体的には、Tsc2(+/-)マウスの脳形態変化が認められた脳領域において、神経細胞やグリア細胞のマーカー分子(NeuN, IbaI, GFAP, MBP等)で免疫組織化学染色を行い、各種細胞分布の変化を解析する。 Tsc2遺伝子がコードするTuberinやその関連分子についてwestern blottingや免疫組織化学染色を行い、Tsc2(+/-)マウスの脳神経病態を明らかにする。さらに、S6K、Ulk1やユビキチン等、タンパク質合成・分解に関わる分子についても免疫組織化学染色を行う。 また、TUNEL染色や細胞増殖・細胞死関連分子(PCNA, p57kip, Bcl-x, Bax等)の免疫組織化学染色や遺伝子発現解析により、細胞変化の臨界点を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の研究は計画通り進展しており、次年度への繰り越し金額(B-A)は1,990と誤差の範囲内である。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度以降は、Tsc2(+/-)マウスの脳形態変化という「中間表現型」の原因である、あるいは関連する脳神経病態とその時期を明らかにする。次年度はTsc2(+/-)マウスの脳形態変化が認められた脳領域において、神経細胞やグリア細胞のマーカー分子(NeuN, IbaI, GFAP, MBP等)で免疫組織化学染色を行い、各種細胞分布の変化を解析する。
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