研究課題
昨年度、Tsc2(+/-)マウスの脳において行った網羅的遺伝子発現解析の結果、Tsc2(+/-)マウスの脳ではアセチルコリン合成・代謝酵素の遺伝子発現量が有意に変化しており、アセチルコリン神経伝達系の異常がTsc2(+/-)マウスの自閉症様行動の責任病態である可能性が予想された。そのため、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬donepezil hydrochlorideがTsc2(+/-)マウスの行動異常を改善するか解析した。Tsc2(+/-)マウスは3-6ヶ月齢雄マウスを用いた。Donepezil hydrochlorideは行動解析1時間前に1 mg/kg s.c.単回投与し、open field testおよび3-chamber testにおいて、Tsc2(+/-)マウスの行動を計測した。Tsc2(+/-)マウスおよび野生型マウス間で有意に差異が見られたopen fieldの外周域および中間域滞在時間は、donepezilの投与下では有意差が打ち消されたものの、滞在時間は対照(野生型マウス、vehicle投与群)と比較して顕著に変化していた。Tsc2(+/-)マウスの病態はdonepezil hydrochlorideの投与により重篤化したと考えられる。Tsc2(+/-)マウスの脳ではChat遺伝子およびAche遺伝子の発現量が亢進し、アセチルコリン合成・代謝回転が亢進していると考えられる。このことから、Tsc2(+/-)マウスの行動異常改善には、アセチルコリン合成・代謝回転を減弱させる方向の、例えば、Chat阻害剤あるいはアセチルコリン受容体mAchR/nAchRの拮抗薬が有効であると考えられる。
4: 遅れている
研究代表者は2016年7月から2018年12月まで、スウェーデン、イノベーション・システム庁のMarie Curie Incoming Project「Potenta opiathybrider med mindre biverkningar」に採択され、Project Leaderとして所属機関とスウェーデン研究機関を往復して共同研究を実施した。そのため、本研究の計画時には想定できなかった業務の多忙により、本年度は、本研究を十分に実施することが出来なかった。
引き続き、Tsc2(+/-)マウスの脳形態変化という「中間表現型」の原因である、あるいは関連する脳神経病態とその時期を明らかにする。Tsc2(+/-)マウスの脳形態変化が認められた脳領域において、神経細胞やグリア細胞のマーカー分子(NeuN, IbaI, Gfap, Mbp等)で免疫組織化学染色を行い、各種細胞分布の変化を解析する。Tsc2がコードするTuberinやその関連分子についてwestern blottingや免疫組織化学染色を行い、Tsc2(+/-)マウスの脳神経病態を明らかにする。さらにS6, Ulk1やユビキチン等、タンパク質合成・分解に関わる分子についても免疫組織化学染色を行う。また、TUNEL染色や細胞増殖・細胞死関連分子(PCNA, Ki67, p57kip,Bcl-x, Bax等)の免疫組織化学染色や遺伝子発現解析により、細胞変化の臨界点を明らかにする。
2018年度は、2016年度から平行して推進している他の研究プログラムに多くのエフォートを割く必要があり、本研究の申請時には計画していなかったことから、本年度の実験を終了することが出来なかった。2018年度に計画していて終了できなかった実験は、引き続き2019年に実施する予定である。
すべて 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 6件)
Mol Autism
巻: 9 ページ: 60
10.1186/s13229-018-0243-3.
Neuropsychopharmacol Rep
巻: 38 ページ: 86-91
10.1002/npr2.12012.
J Pharmacol Sci
巻: 136 ページ: 107-113
10.1016/j.jphs.2018.02.002.