研究課題
好酸球と呼ばれる白血球を主体とした炎症が、アレルギーの病態を形成する上で重要な役割を果たしている。顕微鏡の発達により1850年代に発見されたシャルコー・ライデン結晶(CLC)は、六角錐が底面でつながった針状の構造物で、喘息をはじめとしたアレルギー疾患、寄生虫感染症など多くの疾患の組織や分泌液中で認められ、好酸球性炎症を示唆する古典的な所見として知られている。CLC蛋白は、レクチンの一種であるgalectin-10であることが判明しているが、galectin-10はほぼ好酸球のみが有しており、実にヒト好酸球の総蛋白のうち約10%を占める。galectin-10が炎症局所で結晶化するというのは細胞生物学的にも、また病態としても興味深い。申請者等は好酸球の崩壊型脱顆粒のメカニズムが、自発的な非アポトーシス細胞死であるETosisであることを世界ではじめて見いだしているが、最近、ETosisがCLCの生成に寄与しているという予備検討結果を得ている。そこで本研究では、この仮説を証明し、さらにCLCの生成がETosisの評価に利用できる可能性について検討するものである。28年度は末梢血から高純度分離した好酸球を用いて、CLCの試験管内モデルを検討した。既知の条件でETosisを誘導し、位相差顕微鏡で細胞の形態を検討し、特徴的な結晶構造の生成を確認した。この上で、免疫蛍光染色と共焦点顕微鏡を用いてgalectin-10の細胞内局在変化を検討した。タイムラプス顕微鏡システムにより細胞の形態変化についても基礎検討を行った。一部の研究結果については国内学会や国内誌等で発表するとともに、国際誌に好酸球の分泌機構に関する報告を行った。
2: おおむね順調に進展している
分離好酸球を用いて、ETosisを誘導すると細胞内に六角錐が底面でつながった特徴的な構造物が認められ、CLCの生成が確認された。これを顕微鏡の視野あたりの個数で定量化が可能であり、これはETosisを抑制するNADPH oxidase阻害薬で抑制された。また、無刺激のコントロール細胞ではこれを認めないことから、ETosisに関連した生成であることが示された。細胞内のgalectin-10の局在はETosisの課程で大きく変化し、細胞内で結晶化する様子が捉えられた。電子顕微鏡ではETosis細胞に電子密度の高いCLCの存在が確認された。これらの結果は当初の仮説を裏付ける結果と考えられた。
概ね予定通りに検討が進んでおり、今後はgalectin-10のELISAキットの性能を、培養好酸球を様々に刺激、もしくはライセートを作成して評価を行い、組織や分泌液での測定を行うための基礎検討を行う。特に今後は好酸球性副鼻腔炎の手術検体を用いて、組織中に認められるCLCの同定を効率的に行う方法を検討する。また、血清中のCLC蛋白が病勢を反映しているかどうかも基礎検討を行っていく。
研究計画で当初予定していたほどの細胞分離キットを試用しなかったため、その分を次年度以降に繰り越すこととなった。
物品費として試薬・細胞分離キット等に計上する予定である。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (3件)
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