昨年度までにHBs抗原の変異体および各種遺伝子型を多重モニタリングするための標的ペプチド配列(変異体解析用11種類および遺伝子型解析用8種類)を同定し、さらにそれらのペプチド配列を包括的にモニタリングするためのLC-SRMアッセイ開発に成功している。今年度は、開発したアッセイを用いて標的ペプチドの絶対量計測を行うための定量解析手法を開発した。まずは標的である全てのペプチド配列の連結体(QconCAT)を設計し、さらにQconCATの安定同位体標識体を生合成することにより、絶対量解析のための内部標準を作成した。全ての標的ペプチドは、2種類のQconCAT配列(分子量~30kDa)の設計によりカバーすることが可能であった。次に設計したQconCAT配列をコードする人工遺伝子を合成し、13C/15N標識LysおよびArgを添加したコムギ無細胞合成系を用いて、安定同位体標識QconCATの生合成実験を行った。小スケール(240 μL)の反応槽における20 時間の合成反応によって約2μg の合成量が得られた。設計したQconCAT配列は疎水度が高く、全ての合成したQconCATタンパク質は不溶化していたため、遠心分離後にSDS溶液を用いて可溶化処理を行った。可溶化したQConCATサンプルは、ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離した後に、ゲル内トリプシン消化を行い、MALDI質量分析およびSRMアッセイを用いて得られた消化産物の計測を行った。その結果、QConCATの設計に用いた全ての標的ペプチドは、いずれの質量分析法でも感度良く検出された。SRMアッセイによる定量解析から、無細胞合成QConCAT の13C/15N 標識効率は>99%であり、高品質な内部標準として使用可能であることが明らかとなった。
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