研究課題
平成29年度は昨年度に続き、東邦大学医療センター大森病院へ来院された精神病発症危険状態(At-risk mental state、ARMS)の患者群、掲示ボランティアにより募った健常人群を本学倫理委員会の手続きに基づき、同意書を取得後、血清を採取した。次いで、これらの血清を各種分析方法により、血清中低分子化合物濃度の定量を順次行った。ARMS群および健常人群の例数はそれぞれ56、42となり、例数(サンプル数)は順調に増加している。HPLC-蛍光定量法、LC-MS/MS法、酵素キットを用いて、40種の血清中低分子化合物の定量を継続して行っている。一定のサンプル数が集まり、測定者側がblindで分析した後、血清サンプルの情報開示(ARMS or 健常者、年齢、性別、病歴)を研究分担者と行った。その結果、幾つかの低分子化合物濃度は、ARMS vs 健常人群で有意差が付き始めていることがわかった。不飽和脂肪酸(DHA、オレイン酸、リノール酸、パルミトレン酸)およびチオール化合物(グルタチオン、γ-グルタミルシステイン)においては、ARMS群で有意な濃度の減少が見られた。一方、血清中アミノ酸のうち、グルタミン酸の濃度上昇が見られた。今回の対象であるARMS群は、すべて初診であり、抗精神病薬の服用歴はない。したがって、低分子化合物の濃度変動は、服用している薬物による影響とは考えられず、疾患の発症に由来する、あるいは精神疾患に伴う陰性症状(引きこもりなど)による食生活変化による影響が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
ARMSに対する専門医(研究分担者)による同意説明、同意書の取得、採血の工程に問題はなく、研究に必要なARMS患者の血清試料数が順調に集められている。これにより、ARMS群、健常人群での血清中低分子化合物の濃度に有意差が見られ始めた。当初予期しなかった事柄としては、これまでに文献上着目されていなかった低分子化合物にも有意差がありそうな点である。これについては、今後、ARMS患者の血清試料数が増加するにつれて、より明らかになると思われる。
平成29年度に引き続き、同様に検討を進める。また、東邦大学医療センターへ来院される、同意が取れているARMS群の方は、6ヶ月毎の2回目および3回目の採血にも協力してもらっている。そのため、経時的な血清中低分子化合物濃度の変動や、その時期での臨床症状(軽度の幻覚、幻聴など)との関係性にも焦点があてられる。
次年度使用額が+になったが(+108,240円)、これは大きな額ではなく、消耗品の試薬やプラスチック製品の使用状況(購入状況)により生じたものである。そのため、本研究遂行上の大きなトラブルではないので、この金額をすべて消耗品(試薬、プラスチック製品)の購入に使用する計画である。
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