研究課題
初診(服薬なし)の精神病発症危険状態(ARMS)の患者(24名; 男性12, 女性12)の血清(前夜21時以降食事せず、朝食前の午前8:00-9:00空腹時に採血)に含まれる生体低分子40種の濃度を調べた結果、幾つかの分子濃度は健常者(男女比、年齢が符合する23名)と比して有意な変動が見い出された。抗酸化物質グルタチオンやNMDA受容体コ・アゴニストのD-セリンの濃度減少は、2014年に応募者が統合失調症を発症した患者で調べた結果と同様の変動であったので、生体分子の変動は統合失調症を発症する前のARMS段階から生じていることが示唆された。ホモシステインやL-グルタミン酸濃度の上昇も、統合失調症患者での血中変動が報告されていた。また、ARMS患者におけるL-乳酸濃度の有意な低下を新たに発見し、また、血清中L-乳酸濃度は、精神科医による診断の陰性症状スコアと負の相関性(相関係数 =‐0.565、p = 0.004)を示した。この結果から、血清中L-乳酸濃度が低いARMS患者ほど、感情鈍麻、引きこもり、意欲の減退などの陰性症状の発現が高いことが示唆された。L-乳酸は、従来は疲労の原因物質として考えられていたが、中枢組織においてグリア細胞-神経細胞間のアストロサイト-ニューロン“乳酸”シャトルの存在が提唱され、神経細胞へのL-乳酸の取り込みが長期記憶の形成に寄与すること、神経細胞に取り込まれたL-乳酸がNMDA受容体の活性化を介して、Ca2+を細胞内へ流入させることなどが分かり、L-乳酸は中枢神経系の研究において近年注目されている物質であることから、乳酸の低下がARMS患者で見出されたことは意義深いと考えられる。
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