研究課題/領域番号 |
16K08948
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
村上 由希 同志社大学, 研究開発推進機構, 助教 (50580106)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | トリプトファン / 神経発達症 / 母体環境 / 炎症 |
研究実績の概要 |
現在、最も有効な神経発達症の治療は療育的介入であり、それは早ければ早いほど効果が高い。しかし神経発達症は早期診断が困難で、専門機関や専門医も少なく、積極的介入の遅れが問題となる。この問題を解決するためには、簡便で侵襲性の少ないスクリーニング方法の開発と客観的な早期診断マーカーの確立が重要な課題である。本研究は、母体のストレスや炎症などの環境要因と遺伝的素因によって発症する神経発達症モデル動物を用いて、生体内での内因性代謝産物の動態を明らかする。これにより神経発達症の早期診断のための客観的バイオマーカーを探索し、新規診断法の確立を主たる目的とする。 今年度は、自閉症/知的能力障害(Autism spectrum disorder/Intellectual Disability; ASD/ID)の新たな原因遺伝子として同定されたPtchd1遺伝子欠損動物を用いて解析を進めた。Ptchd1遺伝子欠損動物では、多動性や衝動性の顕著な増加、社会性の欠如、認知機能の低下などASD様の行動異常と注意欠如/多動性障害(Attention-deficit hyperactivity disorder; AD/HD)様の行動異常が確認された。これらの行動異常は、AD/HDで汎用に使われる治療薬、アトモキセチンの投与によって、一部改善が見られ、Ptchd1遺伝子欠損動物のモデルとしての妥当性が示唆された。さらに内因性代謝産物の変動を測定したところ、必須アミノ酸であるトリプトファンとその下流代謝産物がPtchd1遺伝子欠損動物の血液、脳組織のいずれにおいても顕著に変化していることが示された。 さらに生育環境因子による影響を調べるために、妊娠マウスにおいて、炎症性サイトカインを持続的に発現する母体免疫賦活化モデルでの解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ptchd1遺伝子欠損動物については、ほぼ解析を終え、現在、論文を投稿中である。また母体炎症モデルについては、母親の育児放棄による問題を改善し、さらに発現させるサイトカイン量を母体血中で継続的に測定することにより個体間のバラつきを補正することができた。胎児脳での形態的異常や行動異常についても結果が得られはじめており、概ね順調に研究できている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたる今年度は、母体免疫賦活化モデルを中心に解析を進める。行動解析については、統計処理できるだけの十分なN数を揃え、データの再現性について確認する。さらに研究の最終目標である神経発達症の新規バイオマーカーについての可能性を示すために、解析予定の動物における血液ならびに脳内の内因性代謝産物の変動について、測定を進める予定である。先行して進めている胎児脳における各トリプトファン代謝酵素の遺伝子発現量については、将来、大脳皮質にある脳領域ではなく、基底核や線条体など、ASDとの関係が示されている脳領域において、変化がみられることが示されているため、実際の代謝産物量が変化しているのかを詳細に調べていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 本研究で、重要な解析の一つである行動薬理学的試験に使用する予定で、小動物行動解析装置の費用を初年度に計上したが、同施設内で十分な設置場所を確保することが出来ず、購入を断念した。今年度も同動物施設内での場所が確保できず、昨年度に購入した特殊ケージ等を用いて、解析可能であったため、購入しなかった。そのため、次年度使用額に繰越が生じている。 (使用計画) 新年度、動物実験施設内に新たな実験室が使用可能となるため、移動が可能な状態で、初年度に購入予定だった行動解析装置の購入を試みたい。さらに、トリプトファン代謝産物を測定するための装置が同施設内にはないため、外部の施設での測定を試みる予定であり、そのための費用として使用したい。
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