現在、最も有効な神経発達症の治療は療育的介入であり、それは早ければ早いほど効果が高い。しかし神経発達症は早期診断が困難で、専門機関や専門医も少なく、積極的介入の遅れが問題となる。この問題を解決するためには、簡便で侵襲性の少ないスクリーニング方法の開発と客観的な早期診断マーカーの確立が重要な課題である。本研究は、母体のストレスや炎症などの環境要因と遺伝的素因によって発症する神経発達症モデル動物を用いて、生体内での内因性代謝産物の動態を明らかする。これにより神経発達症の早期診断のための客観的バイオマーカーを探索し、新規診断法の確立を主たる目的とする。 当該年度は、生育環境因子による影響を調べるために、妊娠マウスにおいて、炎症性サイトカインを持続的に発現する母体免疫賦活化(MIA)モデルでの解析を進めた。母胎炎症により、生まれた仔マウスで自閉(ASD)様の行動異常が確認された。また生まれた仔が成長した後の血清において、内因性代謝産物の異常が確認された。しかし、胎児脳での炎症性サイトカインの増加や、その受容体の発現増加は見られなかった。このことから、炎症性サイトカインが胎盤を通過し、直接、胎児脳に影響を及ぼしているのではなく、他に胎児脳の異常を媒介している物質があると考えた。特に、炎症によって増加していた代謝産物を直接、妊娠母獣に投与したところ、炎症性サイトカイン誘発によるMIAマウスと同じような行動異常が確認された。さらに、臨床応用のためにヒト検体における測定を行い、診断マーカーとしての有用性を確認中である。
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