平成28年度、29年度の結果を踏まえ、最終年度は同一患者における篩骨洞の部位別での評価を行った。前頭洞、前篩骨洞、後篩骨洞のポリープ上皮と鈎状突起粘膜上皮におけるステロイド受容体(GR)およびGR機能に関与するホスファターゼの発現を確認した。機能的GR(GRα)、ホスファターセPP2Aは、鈎状突起粘膜と比較して、ポリープ上皮では有意にそれらの発現が低下していた。部位別ポリープ間における差は明らかではなかったが、前篩骨洞ポリープで低い傾向にあった。また、同一患者間での鈎状突起粘膜上皮と前篩骨洞ポリープ上皮における自然免疫誘導サイトカイン(TSLP、IL-25、IL-33)の発現レベルは、明らかに前篩骨洞ポリープ上皮において増加していた。さらに、好酸球ケモカインであるCCL4、CCL5、CCL11、CCL26の発現レベルも同様に前篩骨洞ポリープ上皮において増加していた。これらの結果から同一患者内でも炎症局所ではさらにステロイド感受性が低下していて炎症性メディエーターの過剰産生の原因となっていることが示唆された。 気道上皮細胞(BEAS-2B)と好酸球を共培養させた系では、ホスファターゼPP2Aの発現低下とともにステロイド感受性が低下することが確認された。また、同じ系で、好酸球ケモカイン(前述)の増加を認めた。特に、CCL4の発現上昇が顕著であり、炎症局所における好酸球炎症のポジティブフィードバックに関与していることが示唆された。 一方で、プラスミドDNAを用いたPP2Aのノックインモデルでは、GRの核内移行能が上昇することから、PP2Aを含むホスファターゼの活性化が、気道炎症局所のステロイド抵抗性における治療ターゲットになる可能性がある。
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