本研究ではKCNJ5遺伝子変異を有するAPAと同変異を有しないAPAの腫瘍細胞の遺伝子発現動態やエピゲノム的機序で遺伝子発現に影響をあたえるとされるDNAメチル化動態を比較することで、KCNJ5遺伝子変異APAの腫瘍細胞における分子生物学的特徴について解析した。42例の副腎腫瘍検体を用いた(腫瘍内訳:KCNJ5変異陽性APA(K-APA)29例、KCNJ5変異陰性APA(NK-APA)8例、陰性対照としてコルチゾール産生副腎腺腫(CPA)5例)。各腫瘍から抽出したRNAを用い次世代シークエンサーにて各腫瘍の全ゲノムレベルでの網羅的遺伝子発現解析を施行した。さらに各腫瘍から抽出したDNAを用い、マイクロアレイを用いて各腫瘍のDNAメチル化動態を全ゲノムレベルで網羅的に解析した。遺伝子発現解析においては非階層クラスター解析および主成分解析のいずれでもK-APA群は極めて均一な遺伝子発現動態を示した。ATPase変異およびCACNA1D変異例はK-APAに近似した遺伝子発現動態を示す一方、βカテニン変異例と無変異群はCPA群に近似した発現動態を示した。遺伝子オントロジー解析、パスウェイ解析により、K-APA群は細胞膜関連遺伝子群の発現動態が他群と異なること、および炎症系関連遺伝子群の発現低下、Wntシグナル系遺伝子群の発現増加が示された。メチル化解析においてはK-APA群ではNK-APA群に比べ、全ゲノムレベルでDNAメチル化の低下が示された。以上よりAPAは、遺伝子変異によって異なる多様な分子生物学的動態を示す腫瘍群であり、中でもK-APAは均一な特徴を示し、副腎腫瘍球状層あるいはその前駆細胞由来のDNA低メチル化状態をもった細胞集団由来であることが示唆された。
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