研究課題/領域番号 |
16K08964
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
吉村 健太郎 山梨大学, 総合研究部, 助教 (70516921)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 迅速診断 / リアルタイム質量分析 / 機械学習 / 大気圧イオン化法 |
研究実績の概要 |
・データ管理/解析プログラムの構築および改良:得られたマススペクトルを患者情報と共にインプットして関係データベースを構築し、さらに解析に必要なサブセットを任意にエクスポートするためのプログラムを完成させた。同プログラムにはグラフィカルユーザーインターフェースを導入することで、各種作業の簡便化とヒューマンエラーの回避を図った。 ・ヒト脳組織の質量分析およびデータベース構築:脳腫瘍の摘出手術で得られた非腫瘍組織および、WHOグレードIからIVそれぞれの腫瘍組織を質量分析し、マススペクトルを収集した。計28患者より3,233スペクトル (SP) を収集し、非腫瘍/腫瘍、グレード、各種検査結果等の情報と共に関係データベースにインプットした。 ・交差検証を用いた診断精度の評価:上記データベースを基に、部分最小自乗法-ロジスティック回帰 (PLS-LR) を用いて非腫瘍部と腫瘍部および、グレードを判別し、1つ抜き交差検証 (LOOCV) によって精度の評価を行った。全データを含めた非腫瘍/腫瘍の二群判別においては約80%の正答率が得られ、さらに腫瘍をグレード別に判別をした場合においては最大で85.2%の正答率を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度に実施したヒト組織検体の質量分析及び、関係データベースと診断アルゴリズムの構築によって、80%以上の正答率でその検体が腫瘍であるか否かを判別することが可能となり、これは術中の迅速診断に実用が可能な水準である。残りの研究期間にデータベースを拡充することで、さらなる正答率の向上が見込まれる。 研究開始当初は非腫瘍/腫瘍と、グレードの判別を可能とすることを目指していたが、これに加えて術前検査 (MRI所見)、術中検査 (5-ALA)、術後検査 (IDH1、MIB-1)との相関も確認できた。これら従前法による腫瘍領域やその悪性度の判断を、PESI-MSでも行えることが確認できており、当該システムは治療や手術方針の決定においても有益であることが示唆された。 平成29年度以降から開始する手元化PESIの開発に向けて、その方法論に関する特許の出願を完了させた。当該装置の試作機開発にも着手しており、研究の進捗状況は良好である。
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今後の研究の推進方策 |
グレードごとの判別においては、IからIVそれぞれの検体から得られたマススペクトルデータが等しく必要であるが、グレードIおよびIIの検体はIII、IVに比べて入手頻度が低い。全てのグレードの腫瘍から十分なデータ量を収集するには時間を要するため、臨床からの「神経膠腫の境界診断を行いたい」というニーズを優先し、まずはグレードIIIおよびIVの判別精度を向上させる。その後、段階的にグレードIおよびIIの判別精度の向上を試みる。 現段階の診断アルゴリズムでは機械学習としてロジスティック回帰を用いているが、他にもサポートベクターマシンやランダムフォレスト、ディープラーニングなどが利用可能である。多種類の機械学習を試し、最も高い正答率が得られる方法を選別する。 本研究では手術において脳組織を人体より分離することなく、直接使用可能な真のリアルタイム診断システムの構築を目指している。これには質量分析装置からPESI部 (イオン化部) を遠隔化/フレキシブル化する必要があるため、そのデバイスの開発を開始する。
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