研究課題/領域番号 |
16K08964
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
吉村 健太郎 山梨大学, 大学院総合研究部, 助教 (70516921)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 質量分析 / アンビエント / リアルタイム |
研究実績の概要 |
(1) 脳腫瘍マススペクトルデータベースの構築:摘出された腫瘍切片を質量分析して得られたマススペクトルと患者情報を合わせ、関係データベースを構築した。グレードII、III、IVそれぞれの腫瘍組織37、26、50切片を分析し、計876マススペクトルを得た。また正常脳組織コントロールとして腫瘍周辺の非病変部を収集し、10切片より163スペクトルを得た。グレードIの腫瘍組織は入手数が非常に少なかったため、今回の解析対象からは除外した。 (2) 判別精度の検証:得られたマススペクトルを学習機械であるロジスティック回帰で学習した後、判別性能を一個抜き公差検証で確認した。非腫瘍部対各グレードの2群判別における正答率はグレードIIが96.3%、グレードIIIが99.7%、グレードIVが99.0%と、非常に高い判別精度が得られた。また非腫瘍部対全グレードの4群判別における正答率は82.4%であった。腫瘍グレード間の判別においてはグレードIIとIIIまたはIVの判別が最も重要であるが、グレードII対IIIが80.8%、グレードII対IVが85.2%、グレードII対III+IVが79.7%であった。これらの結果は非腫瘍-腫瘍の判別において、術中迅速診断の手法として実用レベルであることを示唆している。いずれも2群以上の判別においては判別性能がやや低くなるが、これは今後データベースを拡充することで改善される見込みである。 (3) 術中迅速診断プローブの構築:検体を患者体外へ取り出すことなく、in situでの診断を可能とするために、質量分析装置からイオン化部を遠隔化する機構の構築を試みた。本システムではイオン化部として短針エレクトロスプレー法を用いているが、これを小型化し、さらにフレキシブルチューブによって、生成されたイオンを質量分析装置に輸送する機構を検討する。なお当該機構に関して特許出願を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脳腫瘍検体の収集および、マススペクトルデータベースの構築がおおよそ完了し、非腫瘍-腫瘍またはグレードの判別いずれにおいても、目標の正答率を得ることができた。グレード判別では計画当初IからIVの全てを含むことを計画していたが、グレードIの検体は入手自体が困難であることが分かったため、本研究における解析対象からは除外した。しかし術中迅速診断においてはグレードII、III、IVが判別可能であれば、脳内留置剤の要否判断が可能であるなど、臨床的有用性を十分に発揮するため、診断システムとしての性能は損なわれないと判断する。加えてin situ検査プローブの試作機の完成および、その知的財産権の獲得も達成し、全体としての進捗はおおむね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
・ 各腫瘍グレードの判別精度をさらに向上させるために、引き続き検体の収集とデータベース拡充を進める。特に正常組織コントロールとしての腫瘍周辺非病変部検体のデータが少ないため、重点的に追加する。 ・ 術中迅速診断プローブの構築に向けて、短針エレクトロスプレー法の小型化、遠隔化を開始する。また新たなリアルタイム/オンライン検体採取法として、ライン式検体採取-イオン化プローブの検討を開始しており、これも並行して構築を進める。 ・ 術中迅速診断プローブの性能検証のために、マウス脳腫瘍モデルの準備を開始する。リアルタイムで検体の採取あるいはマススペクトルの取得が可能なことを確認することに加えて、多点観察を行った際にメモリー効果がどの程度発生するのか、メンテナンスなくどの程度継続した分析が可能か等の検証を合わせて行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に発注した試薬が値引きされたために生じた残金である。
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