研究実績の概要 |
定量比較質量分析(TMT-MS)により、T-ALL発症モデルマウスの腫瘍組織(胸腺)抽出サンプルから、健常及びT-ALL発症マウス両者の発現に変化がみられるタンパク質が648個同定され、特に腫瘍の形成と糖代謝にかかわるピルビン酸キナーゼ(PK)M2がT-ALL発症マウスの胸腺リンパ腫でタンパク質及びmRNAレベルで有意に高発現していることを報告した (Kimura A, et al., Oncotarget. 2017)。さらに、ヒストンタンパク質(H1.2,H3.3C,H4)がT-ALL発症マウスにおいて健常マウスの20-30%にまで発現低下し、加えてBRG1が発現増大していることが確認された。BRG1は、クロマチンリモデリング及びT細胞の自己複製に関わるSWI/SNF1複合体を形成するタンパク質であることから、T-ALL発症に際してSWI/SNF1複合体増大によるクロマチンリモデリングが過度に生じることにより、幼若T細胞がより容易に増殖できる可能性があることが示唆された。 なお今後の計画として、TMT-MSで同定された多くの微量タンパク質(バイオマーカー候補)について、従来のウエスタンブロッティング法による検証に加え、LC-MS/MS(SRM法)によるタンパク質定量を応用して検証を行う予定である。この方法による検証が確立できれば、T-ALLのみならず他の血液疾患や癌も含めた診断マーカー候補である微量タンパク質を、質量分析法を応用した測定法を新たに確立し、日常検査法としても適用できる可能性があると考えられる。さらに、開発途上国においては血液疾患を的確に鑑別・診断する知識や技術はまだ十分ではないが、いずれは疾患発症におけるタンパク質相互作用解明で明らかとなったバイオマーカーを測定することにより診断法が確立できれば、開発途上国での血液疾患の診断率を向上することができる。
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