本研究の目的は、慢性腎臓病(CKD)に高頻度に合併する心血管病や栄養障害などの発症・進展と標的となるDNAの後天的変性との関係を基礎的および分子疫学的に検証することであった。CKD、特に末期腎不全患者では心血管病や栄養障害の発症頻度が高い。合併症の発症・進展抑制、腎障害の進展抑制はCKD患者の予後を向上させるとともに、医療費の削減にもつながるため、重要な研究課題と考えられる。 臨床研究における検討では、透析患者130例、保存期CKD患者42例、腎機能が正常な心血管病患者40名において抗加齢因子であるKlothoならびにSirtuin1遺伝子の後成的変化の検討を行った。その結果、保存期CKD患者、透析患者ともに後成的遺伝子変性が増加し、腎機能が正常な心血管病患者ではKlotho遺伝子のメチル化頻度が高い傾向にあった。透析患者では約70%の患者でKlothoとSirtuin1遺伝子のメチル化を認めており、特にKlotho遺伝子のメチル化を有する透析患者では、心血管病の罹患率が高いことが明らかとなった(約75%)。さらに、透析患者ではKlotho遺伝子のメチル化を有する患者において、栄養障害のマーカーが有意に低下し、多変量解析の統計手法で栄養障害に関連する因子の影響を排除してもKlotho遺伝子のメチル化が栄養障害のマーカーの低下に対する独立したリスクあった。これらの結果から、透析患者や心血管病を有する患者では、後成的な遺伝子の変性が疾患発症の病態に関わる可能性が考えられた。現在、これらの成果を論文化中である。今後は、CKD患者の栄養障害について、後成的遺伝子変性と体筋肉量減少や筋力低下への影響を検討し、さらに健常人における後成的遺伝子変性の評価を追加検討して、後成的遺伝子変性の発症契機について検討を進める予定である。
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