研究課題
H25~27年度基盤研究(C)環境癌における3p21領域ゲノム構造異常の詳細解析(課題番号25460710)の結果、シーケンスレベルの体細胞変異遺伝子においては類似点が多い悪性中皮腫と腎細胞癌では、3p21領域の欠失変異について大きく異なることが判明した。前者はBAP1など複数遺伝子の数百Kb以下の限局した領域がホモ欠失しやすいが、後者では3p短腕全体の1アレル欠損により複数のがん抑制遺伝子の喪失が癌の発生・進展に重要と考えられた。前研究では3p21にのみ着目したが対象領域を広げ、さらに多くの検体を解析するため、従来のMLPA解析法と次世代シーケンサーを組合せたdigital MLPAを開発した。進行度の異なる検体につき、網羅的に遺伝子のコピー数変化を解析することにより、これら遺伝子の変異と癌の発生・進展との関連性につき検討予定である。さらに悪性中皮腫と腎細胞癌はともに早期発見が難しい腫瘍であるため、尿や体液中のcell-free DNAを用いた非侵襲的癌存在診断法確立を目標としている。そこで両腫瘍で変異やコピー数変化が高頻度で検出された遺伝子とゲノム変化が生じにくい領域を含め234遺伝子約380エクソンを検出対象としたprobeを設計し、digital MLPAを実施した。またquality checkのため約90個SNPのタイピングも実施した。この結果、ばらつきが小さく再現性が高いエクソン単位のゲノムコピー数解析系が構築できた。従来のゲノムコピー数解析手法であるCGHアレイやリアルタイムPCRとはその検出領域の違いはあるが、解析精度はdigital MLPAの方が格段に高い感触が得られている。悪性中皮腫検体の解析を行ったところ、これまで報告されていない遺伝子のコピー数変化が検出されており、検体数を増やして腫瘍発生・進展への寄与を検証する予定である。
2: おおむね順調に進展している
まず1.25倍の変動を再現性良く検出するdigital MLPAの構築を目標とした。ノーマライゼーション用reference検体として40歳未満の男性末梢血ゲノム20名分を混合しN=4で解析に用い、一実験に60-70検体が解析可能であった。具体的には正常検体のコピー比のばらつき平均は0.06で、腫瘍検体では各検体各々エクソンの2回のコピー比の差は、平均0.1-0.15で標準偏差は0.15-0.25であった。ばらつきの生じやすいプローブが存在するが、それらを除くと1.25倍の変動を再現性良く検出可能であった。腫瘍臨床検体においては、正常細胞の混入のため欠損の検出が難しい。CGHアレイでコピー数解析済み腫瘍検体を用い、digital MLPAで解析したところ、すでに欠損が判明している領域は本系でも同様に欠損が確認された。さらにこれまで報告されていない遺伝子にも微小欠損が検出されており、エクソン単位のコピー数解析によりCGHアレイと次世代シーケンス解析を含む従来手法では見逃されてきたゲノム変化を捉える事が出来た。また約90個の多型シグナル検出により、臨床検体の質の検定が可能で、ペア検体の取違えもモニター可能であった。
一部の遺伝子については解析対象エクソン数を追加予定で、さらに詳細なコピー数解析系を目指している。今後臨床検体数を増やして、これまで見過ごされてきたゲノムコピー数変化を検出したい。特に悪性中皮腫は治療ターゲットとなりやすい増幅遺伝子がほとんど見つかっていないことから、細かなコピー数変化を捉えることで新発見の可能性があり期待できる。腎細胞がんに関しては、尿や血清中のcell-free DNAを用いた非侵襲的癌存在診断法確立を目標としており、正常細胞の混入が少ない微量DNAのコピー数解析ができれば画期的である。
研究支援者の3月雇用費用は次年度4月の支払いになるため、それに充当するため残している。
今後検体数を増やして解析するためには臨床検体からゲノムDNAの調製準備に多くの時間を要するため、研究支援者のサポートが必須であり、次年度分と合わせて人件費に充当し、有効に使用する
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