殺細胞性抗癌剤のうち、特に乳癌、卵巣癌、肺癌など固形腫瘍で多くの適応疾患があるパクリタキセルは、有害事象として末梢神経障害の発現頻度が高く、重度の末梢神経障害により著しいQOL低下を来すことも稀ではない。またパクリタキセル以外でも大腸がんに対するオキサリプラチンや、造血器腫瘍に対するビンクリスチンなど末梢神経障害が問題となる薬剤は多数存在している。しかしながら、抗癌剤起因性末梢神経障害に対する画期的治療薬や予防法は未だに存在せず、鎮痛薬、抗うつ薬、漢方薬など対処療法を行っているのが現状である。近年グレリンの新しい生理活性として神経保護作用が推測されている。本研究は、合成ヒトグレリン補充下での化学療法を行うことで、抗癌剤起因性末梢神経障害を予防する新規治療法確立を目指している。平成28年度~29年度の計画は、パクリタキセル投与患者の血中グレリン濃度を測定し、各々の末梢神経障害の程度を評価することであった。検体の集積は順調に進み、グレリン濃度と抗癌剤起因性末梢神経障害の重症度との関連が示唆された。平成30年度以降は、パクリタキセル投与によって作成した末梢神経障害マウスモデルを用いて、末梢神経障害に関与する炎症マーカーの解析を行った上で、グレリン投与前後の末梢神経障害の程度をVon Fley Filamentテストにより評価し、グレリンによる神経保護作用について検証した。また実際の抗癌剤起因性末梢神経障害患者においてCRP等の炎症マーカー、レプチン、IGF-1等の内分泌マーカーを測定し、血中グレリン濃度との関連についても検討を加えた。グレリンによる抗炎症作用により抗癌剤起因性末梢神経障害が軽減される可能性が示唆された。
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