研究課題/領域番号 |
16K08991
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
笹栗 智子 佐賀大学, 医学部, 助教 (00380767)
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研究分担者 |
平川 奈緒美 佐賀大学, 医学部, 准教授 (20173221)
八坂 敏一 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 准教授 (20568365)
吉田 裕樹 佐賀大学, 医学部, 教授 (40260715)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | IL-27 / 神経障害性疼痛 / 鎮痛効果 |
研究実績の概要 |
慢性疼痛発症の機序においてサイトカイン等の様々な免疫分子の関与が示唆されている。我々はインターロイキン(IL)-27に注目して研究を行ってきた。その理由は、IL-27が疼痛行動を誘発する炎症性サイトカインIL-17の産生を抑制し、疼痛モデルに対して治療効果が報告されている抗炎症性サイトカインIL-10の産生を増加させるからである。そして、IL-27ノックアウト(KO)マウスは何も処置を行わなくても痛覚過敏であることを見出した。この過敏はIL-27を補うことで正常に戻ることから、IL-27は痛みの感度調節をしていると考えている。本研究では、IL-27の慢性疼痛に対する治療効果を調べる。 昨年度はマウスの神経障害性疼痛モデル、炎症性疼痛モデルを作製し、IL-27の鎮痛効果を調べた。これらのモデルを作製し、過敏を示したマウスに100 ngのIL-27を単回腹腔投与して鎮痛効果を調べた。この濃度はKOマウスの痛覚過敏を完全に正常化するのに最低限必要な量であったため、生理的濃度に近いと考えられた。しかし、疼痛モデルに対する治療効果は得られなかった。 本年度は神経障害性疼痛のみに絞り、IL-27の投与回数や濃度を変更して検討した。病態時には生理的濃度では効果が得られない可能性を考え、薬理学的濃度として10倍量の検討を行った。IL-27は高価な試薬であるため、それ以上の用量の投与は困難であった。まず、昨年と同様に神経障害性疼痛モデルを作製し、その後10倍の濃度である4μgを用いて単回腹腔投与を行った。しかし、この方法では治療効果は得られなかった。次に持続腹腔投与の検討を行った。神経障害性疼痛モデル作製直後から、1日1回の連続投与を5日間行った。その結果、1回400 ngの投与では明らかな治療効果は得られなかったものの、1回4μgの投与では有意な治療効果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の結果から、4μgのIL-27を毎日連続投与することで、神経障害性疼痛を軽減できる可能性が示された。IL-27の治療効果が得られる用量や投与法を同定することに時間を要してしまったため、全体として遅れている。 昨年度、共同研究者が施設を異動したことで初動が遅れてしまい、それを引きずった形となっていることも影響している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の結果から、神経障害性疼痛モデルにおいてIL-27(4μg/マウス)を連続腹腔投与すると治療的効果が得られる可能性が示唆された。しかし、まだ観察数が少ないため、観察数を増やすことが必要である。また、可能であれば髄腔内投与方についても検討したい。髄腔内投与に関しては他のグループによりアメリカの学会において発表されており、治療効果が報告されている。その結果について検証することも重要であると考えられる。 また、このIL-27の神経障害性疼痛に対する治療効果のメカニズムに脊髄のグリア細胞が関与しているのかどうかを組織学的に検討する。治療効果の得られたプロトコールで処置されたマウスと対照群マウスを実験終了後、麻酔下で灌流固定し脊髄の組織を観察する。神経障害性疼痛モデルでは脊髄後角ミクログリアの増殖がその病態形成に重要であると報告されており、IL-27連続投与によってミクログリアの増殖を抑制することが出来るのかどうかについて調べる。また、神経障害性疼痛の発症メカニズムとして脊髄アストロサイトの活性化も報告されている。活性化アストロサイトではGlial Fibrillary Acidic Protein(GFAP)と呼ばれる中間径フィラメント蛋白質の発現量が増加すると報告されている。このGFAPの発現増加がIL-27連続投与によって抑制されるかどうかについて調べる。 これらの検討には免疫組織化学法を用いて行う。ミクログリアの細胞数を数えるためには、ミクログリアに特異的に発現するIonized calcium binding adapter molecule 1(Iba1)に対する抗体を用い、アストロサイトの活性化を観察するためにはGFAPに対する抗体を用いる。 当初計画していた様々な遺伝子の発現変化についての検討は、実験環境の変化に伴い行うことができない可能性が想定される。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究がやや遅れているので、今年度に購入予定であった試薬や電子機器などの物品類を購入せず、また、予定していた人件費の出費がなかったため、次年度使用額が生じた。 次年度前期には今年度購入しなかった物品類を購入し、今年度できなかった研究を行う予定である。また、次年度には論文投稿を行う予定であり、投稿費としても使用する予定である。
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