昨年度までに、炎症性疼痛において、炎症部位の皮内にシアル酸分解酵素を投与すると痛みが抑えられることが明らかとなった。炎症が生じている皮膚では、感覚神経線維が表皮内に侵入しており、このことが痛みを増強することの一因となっていることが報告されている。これまでに、この神経線維がシアル酸分解酵素の投与によって形態的に変化することを見出した。今年度はさらに解析を進め、繊維の形態を分類し、シアル酸分解酵素により表皮内の神経線維が短くなることが明らかとなった。さらに、昨年度ある種の神経ペプチドがシアル酸分解酵素により神経線維内で増加している可能性を示唆する結果が得られたが、この神経ペプチドに対するアンタゴニストを投与することで、シアル酸分解酵素の鎮痛効果が減弱することを見出した。すなわち、シアル酸分解酵素は神経線維の縮退と、鎮痛効果を有するペプチドの蓄積を介して鎮痛効果を発揮していることが示唆された。今後は、この二つの現象が関連するか検討を行う。 一方、脊髄においてシアル酸含有糖脂質であるガングリオシド合成に関わるシアル酸転移酵素の遺伝子発現量が炎症性疼痛により影響を受け、概ね炎症初期には発現量増加、炎症慢性期には発現量低下が認められた。初期に発現量増加すると考えられるガングリオシドを健常マウスの脊髄髄腔内へ投与したところ、最も増加すると予想される糖脂質でアロディニア誘導効果が認められた。また、慢性炎症期に発現量が低下すると考えられる糖脂質の一部を脊髄髄腔内へ投与したところ、反復投与により鎮痛効果が認められた。よって、シアル酸含有糖脂質の脊髄における発現量の増減が炎症性疼痛の一因となる可能性が示唆された。
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