本研究の目的は、これまで我々が明らかにしてきた分界条床核背外側部のCRH(Corticotropin-releasing hormone)ニューロンにおける痛み反応の情動成分の役割に関して明らかにすることにある。今年度は、性腺ステロイドホルモンの役割に焦点をあて、電気生理学的に検討した。実験にはCRH発現細胞にてVenus由来の強い蛍光を示すCRF-VenusΔNeoマウスを用いた。6週齢で雌雄の性腺を摘除、8週齢で低濃度エストロジェンチューブ (20 ug/ml)、対照群としてコントロールチューブ(sesame oil)を皮下に留置し、9週齢で痛み刺激としてホルマリンテストを行った。このdoseは、我々の研究から報告されたestrogenのnegative feedbackのみが引き起こされる量である。これまでの研究で性差が認められたホルマリン投与10分後に脳を摘出し、パッチクランプホールセル法で膜電位固定法により-60mVに電位を固定、TTX存在下でシナプス入力を遮断し、ビククリン存在下でmEPSC(miniature Excitatory Postsynaptic Current)を検討した。その結果、雄性マウスではエストロゲンによる影響、すなわちmEPSCの頻度や振幅に有意な変化は認められなかった。一方、雌性マウスでは、卵巣を摘除するとmEPSCの振幅には変化が認められなかったが、頻度が抑制され、低濃度エストロジェンチューブにより頻度が増加する事が明らかとなった。これらのことから、痛み行動における性差はAMPA受容体を介したグルタミン酸の興奮性入力における伝達物質の放出確率が関与する可能性があるが、推測どおり雄性ではエストロジェンの影響を受けないこと、一方、雌性ではエストロジェンによる痛み行動の変化が、分界条床核背外側部のCRHニューロンが関与することが示唆された。
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