研究課題/領域番号 |
16K08999
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研究機関 | 愛知医科大学 |
研究代表者 |
羽渕 脩躬 愛知医科大学, 公私立大学の部局等, 客員教授 (90024067)
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研究分担者 |
羽渕 弘子 愛知医科大学, 公私立大学の部局等, 客員研究員 (90329821)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 骨髄由来肥満細胞 / 膝関節炎 / モノヨード酢酸 / Fat pad / 疼痛 / 高硫酸化プロテオグリカン / トリプターゼ / PAR2 |
研究実績の概要 |
変形性関節炎に伴う膝の慢性疼痛は患者のQOLを左右しており、疼痛の仕組み解明とその抑制が大きな課題である。私たちはマウスのモノヨード酢酸(MIA)誘起膝関節炎モデルにおいて、培養肥満細胞(BMMC)の関節への移入が痛みを引き起こすことを発見し、この系を用いて痛み発生機構解明に取り組んできた。膝の痛みの定量的測定のために、自由行動中のマウスを観察し、両前肢を壁に当てて全立ち上がる回数のうち未処理の下肢のみで立ち上がる回数の割合を求めた。この方法ではVon Frey法では検出できない痛みの変化を観察できた。注射したBMMCが関節内に留まっていることを確認するため、GFP-Tgマウスから作成したBMMCを注入し、GFPとmMCP6(トリプターゼ)の抗体染色で陽性を示す細胞が関節内に存在することを確認した。MIA未処理の関節にBMMCを移入しても痛みを誘起しないので、痛み誘起には関節内炎症によるBMMCの活性化が必要である。脱顆粒した肥満細胞から放出されるトリプターゼは神経細胞のPAR2受容体を活性化することが知られている。痛み誘起へのトリプターゼの関与を確かめるため、PAR2のアンタゴニスト存在下でBMMCを移入したところ、BMMCのみに比べて痛みが顕著に低下した。PAR2のアゴニストをBMMCの代わりに注入したときはPBS注入の対照よりも痛みが増加した。よってトリプターゼが痛みの誘起に中心的な役割を果たしていることが推定された。免疫組織化学により、PAR2受容体は主に表層の軟骨細胞と軟骨膜で発現しており、MIA処理で発現強度が増加した。BMMC移入による痛み誘起に伴い、炎症性サイトカインIL-1b、IL-6,TNF-αおよび痛み関連因子NGF、CGRPの発現が上昇した。アンタゴニス存在下でBMMCを移入したときは痛み誘起が抑制されるとともにこれらの遺伝子発現が低下した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
変形性関節炎ではフレアと呼ばれる間歇的な痛みの発生が起きるが、フレアが起きる仕組みはほとんど分かっていない。培養肥満細胞の移入による痛みの誘起という現象は、フレアの仕組みを解明する上で有力な手がかりとなっている。PAR2のアンタゴニスト、アゴニストを用いた実験により、肥満細胞から放出されるトリプターゼが痛み発生で中心的な役割を果たしているという本研究の結果は、トリプターゼ放出につながる肥満細胞の脱顆粒阻害およびPAR2を介したシグナル伝達の阻害がフレアの制御につながる可能性を示しており、本研究の重要な成果である。
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今後の研究の推進方策 |
関節に注入したBMMCを活性化しトリプターゼを放出させる因子は、MIAで炎症を起こした細胞から遊離されると考えられるが、その因子を同定することは痛み発生機構を解明するために必要である。関節炎に伴い発現が増加し、肥満細胞の活性化作用を持つ因子としては、NGF、SPが考えられ、これらの因子が関節組織または培養軟骨細胞で発現が増加するか調べることが必要である。 痛みの収束には組織の修復が最も望ましいが、組織の修復にはM2マクロファージの関与が考えられる。M2マクロファージへの分化にはIL-4, IL-10のシグナルシグナル伝達が必要だが、これらの分子はヘパリン結合性であり、マクロファージに存在する高硫酸化コンドロイチン硫酸CS-Eと結合する可能性が考えられる。骨髄由来マクロファージからIL-4, IL-10刺激によるM2マクロファージへの分化を、私たちが作製したCS-E欠損マウスと野生型マウスで比較することにより、M2マクロファージ分化に及ぼすCS-Eの役割を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
動物実験で再現性のある結果を得るのに、想定以上の時間がかかったことに加え、今まで実験を行っていた研究創出支 援センターが使用できなくなり、引っ越しのために実験の時間が制約されたことにより、重要な実験を来年度にさらに 行なうことが必要となった。また、論文の作成と投稿のために来年度に予算を延長することが必要である。
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