研究課題
注意欠如・多動性障害や自閉症スペクトラム障害に代表される高次脳機能障害の発症は早産児で増加するが,原因はわかっていない.これらの児のMRIで高率に観察される微細異常との関連が指摘されているのに加え,近年,急性期の痛み刺激がMRIの微細な異常に寄与することが報告されている.ベッドサイドで新生児のコンフォート・ディスコンフォートを定量できれば,環境やケアの質向上だけでなく,高次脳機能障害の原因究明と予防に飛躍的進化をもたらすと考える.本研究では,NICUのベッドサイドで,痛み関連電位および脳酸素代謝の変化から,新生児の痛み・ストレスへの反応を科学的に定量する測定系を確立し,集中治療環境・ストレス・MRI上の微細脳損傷・遠隔期の高次脳機能障害との因果関係を検証することを目的に計画を実施している.研究初年度である2016年度は,研究プロトコールの施設内倫理審査及び観察系の整備を終え,当初予定した通り,年度内に臨床ボランティアからパイロットデータを取得することが可能であった.これらのデータ解析から,ストレスと関係の深いマーカー候補を選定し,2年度以降のコホートから得られるデータにおいて評価スケールを確立する予定である.また,過去の関連研究から派生したストレス・生体リズムに関する研究業績を並行してまとめ,本研究課題と直接関連する6編の研究成果をまとめ,国際査読誌に掲載することができた.2年度以降,研究代表者の施設交代による測定系の整備確認及び倫理委員会の再審査が必要になるが,初年度に確立された測定系を用いて,研究期間内に目標とする成果が得られるよう,周到に環境整備を行う予定である.
1: 当初の計画以上に進展している
研究初年度は臨床研究プロトコールの完成と倫理審査に並行して,心拍・呼吸・脳波・動脈血酸素飽和度・脳組織酸素飽和度を十分な時間分解能で取得可能な測定系の整備を行った.これらの整備が順調に進んだ結果,入院児からボランティアをインフォームドコンセントの上リクルートし,臨床上予定された静脈穿刺による採血(痛み刺激)前後で生体情報の記録を行うパイロット計測が年度内に達成された.パイロットデータの解析から,痛みやストレスの定量化に利用可能であることが予測される事象関連電位・脳波および心電図波形の得意成分の変化,脳内酸素飽和度の局所的変動を抽出し,候補となる17種類のバイオマーカーを選別することができた.これらの情報に基づき,2年度にはリクルートするボランティアコホートから生体情報を記録し,これらの17項目のバイオマーカーと,古典的痛みスコア(主観評価)との比較から,スコアリングシステムの確立が可能と考える.これらの研究と並行して,本研究で使用される非侵襲的マーカーに影響を与える因子について,唾液コルチゾールを用いた研究(Kinoshita et al. Sci Rep. 2016),近赤外線時間分光法を用いた研究(Kurata et al. Sci Rep. 2016),MRI異方性拡散強調画像情報を用いた研究(Yamada et al. Sci Rep. 2016),周生期の環境が児の生体リズムに与える影響を検討した研究(Iwata S et al. Sci Rep. 2017)の解析を進め,英文査読誌に掲載することができた.
2年度目にあたる2017年度には,初年度のパイロット研究の結果から提案された17項目の痛み・ストレス関連バイオマーカー候補を用いて,30症例の予定採血前後のポリグラフ記録から,古典的痛みスコアおよび採血手技から見た侵襲と関連の強い独立項目を3-5項目程度抽出しスコア化を試みる.2017年4月1日より研究代表者が異動となり,施設交代が必要であるため,異動先施設の倫理委員会によるプロトコールの再審査を進めるとともに,測定系の再整備を滞りなく行う予定である.これらの準備が整うと予想される2017年10月以降には,再度被験者保護者へのインフォームドコンセントを経て,症例のリクルートメントを開始する.修正在胎28週以降のNICU症例において,採血予定時刻の前後にポリグラフ評価を行う.痛みの評価に加えて,痛み以外の処置をビデオ画像・音声から洗い出し,痛みに対する反応との差異をポリグラフ情報の変化を用いて比較検討する.記録された24時間のデータから算出されたストレス定量値,および,入院から退院までの痛みを伴う処置の積算回数と,退院時MRI(施設のルーチンにより診療目的で退院時に撮影するT1・T2強調画像・異方性拡散強調画像)における微細脳損傷の所見との相関を検討する.MRI画像は確立された判読スコア(Woodward 2006 NEJM; Iwata 2012 Pediatrics)に沿って評価し,DTI情報からは拡散係数(ADC)および方向性拡散係数(FA) マップを作成し,tract-based spatial statistics(Ball 2013 Neuroimage)により脳内18か所の定量値を算出,微細構造の指標とする.研究期間終了後の生後18か月・3歳時には面接式発達評価(Bayley III)による認知・運動・言語機能の詳細評価を行い,ストレスの影響を個体間で比較する.
研究初年度に,本研究に専用で使用可能な近赤外線スペクトロスコピー測定装置を購入予定であったが,共同研究者が購入した同等機種が利用可能となったため,購入する必要がなくなった.
異動先施設においても,近赤外線スペクトロスコピーの新規購入の必要はないが,その他の生体情報ポリグラフを新規に購入する必要が生じたため,共同研究者との資金合算によってポリグラフを購入する必要がある.
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 7件、 謝辞記載あり 3件)
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