研究課題
在胎28週未満で出生する超早産児では,遠隔期に発達障害を来すリスクが非常に高いことが良く知られている.近年ではさらに,34-36週程度の後期早産児においてすら,注意欠如・多動性障害や自閉症スペクトラム障害に代表される高次脳機能障害の発症リスクが上昇することがわかってきている.責任病変については明確にされていないが,これらの児においてMRIで高率に微細脳構造異常が認められること,急性期の痛み刺激に比例してMRI所見が増大することなどから,痛みやストレスが脳病変や発達異常の一因となっている可能性が指摘されている.ベッドサイドで新生児の快・不快を定量できれば,環境やケアの質向上だけでなく,高次脳機能障害の原因究明と予防に飛躍的進化をもたらすと考える.本研究は,ベッドサイドで,痛み関連電位および脳酸素代謝の変化から,新生児の痛み・ストレスへの反応を科学的に定量する測定系を確立し,集中治療環境・ストレス・MRI上の微細脳損傷・遠隔期の高次脳機能障害との因果関係を検証することを目的にしている.研究2年目にあたる2017年度には研究代表者の施設異動(久留米大学小児科から名古屋市立大学新生児・小児医学分野へ)があり,これまで使用可能であった計測機器の一部を購入する必要が生じたが,年度末までにビデオ・近赤外線・脳波を含む生体情報を同時記録可能なポリグラフの再構築が終了した.倫理委員会の承認が得られ次第,痛み評価スケール確立のための計測が再会可能となる.初年度に記録したデータからは,脳波・近赤外線情報よりも,心電図の特定周波成分が,既存痛みスコアと強い相関を見せることが推測された.本年度も過去の関連研究のストレス・生体リズムに関する業績をまとめ,本研究課題と直接関連する4編の論文を英文誌に投稿中・投稿予定である.遅れが生じているが,研究期間内に目標成果が得られるよう最善を尽くす所存である.
3: やや遅れている
2016年度は臨床研究プロトコール作製・倫理審査に並行して,心拍・呼吸・脳波・動脈血酸素飽和度・脳組織酸素飽和度を十分な時間分解能で取得可能な測定系を確立した.インフォームドコンセントの上,入院児からボランティアをリクルートし,臨床上予定された静脈穿刺による採血(痛み刺激)の前後で生体情報の記録を行った.これらのパイロットデータに基づいて痛みの定量化に利用可能と予測される事象関連電位・脳波および心電図波形の特異成分の変化,脳内酸素飽和度の変動を抽出し,候補となる17種類のバイオマーカーを選別した.2017年度は,研究代表者移動のため,一部の備品の再購入および倫理委員会によるプロトコール審査が再度必要となったため,新たな症例リクルートメントはできなかったが,パイロットデータの詳細な解析を行い,心電図の特定周波成分が,既存痛みスコアを用いた定量値と最も強い相関を見せることが明らかになった.これらの研究および準備と並行して,本研究で使用される非侵襲的マーカーに影響を与える因子について,尿中コルチゾールおよびメラトニン代謝産物を用いた研究,近赤外線時間分光法を用いた研究,周生期の環境が児の生体リズムに与える影響を検討した研究の解析を進め,現在4編を英文査読誌に投稿中もしくは近日中に投稿予定である.
最終年度にあたる2018年度には,パイロット研究の解析結果から提案された17項目の痛み・ストレス関連バイオマーカー候補を用いて,採血前後のポリグラフ記録を50症例収集し,古典的痛みスコアおよび採血手技から見た侵襲と関連の強い独立項目を3-5項目程度抽出し,スコア化を試みる.本研究ではパイロット研究とは異なり,修正在胎28週以降のNICU入院症例において,採血予定時刻の前後12時間にわたる長時間ポリグラフ評価を行う.痛みの評価に加えて,痛み以外の処置をビデオ画像・音声から洗い出し,痛みに対する反応との差異をポリグラフ情報の変化を用いて比較検討する.記録された24時間のデータから算出されたストレス定量値,および,入院から退院までの痛みを伴う処置の積算回数と,退院時MRI(診療目的で退院時に撮影されるT1・T2強調画像・異方性拡散強調画像とその定量値)における微細脳損傷の所見との相関を検討する.MRI画像は確立された判読スコア(Woodward 2006 NEJM; Iwata 2012 Pediatrics)に沿って評価し,DTI情報からは水拡散係数(ADC)および方向性拡散係数(FA) マップを作成し,tract-based spatial statistics(Ball 2013 Neuroimage)により脳内18か所の定量値を算出,微細構造の指標とする.研究期間終了後の生後18か月・3歳時には面接式発達評価(Bayley III)による認知・運動・言語機能の詳細評価を行い,痛みやストレスの影響を個体間で比較する.
本年度はデータ収集用のポリグラフを新規購入したが,当初予定と若干の価格差が生じた.差額に関しては,最終年度にポリグラフの消耗品および成果発表のための学術集会参加費用などの用途に使用したい.
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件)
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