研究課題/領域番号 |
16K09014
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
川浦 稚代 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 講師 (60324422)
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研究分担者 |
藤井 啓輔 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 助教 (40469937)
今井 國治 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 教授 (20335053)
池田 充 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 教授 (50184437)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 放射線防護 / 医療被ばく / 乳幼児CT / 人体ファントム |
研究実績の概要 |
本研究は、放射線を利用した診断検査の中でも、比較的高線量被ばくを伴うX線CT検査を受診する日本人乳幼児の医療被ばくの実態を実測により調査することを目的としている。具体的には、日本人の人体形状を模した人体ファントムを開発し、その内部に微小線量計を多数設置して、各臓器位置での被ばく線量を測定評価することで、日本人体型に即したCT被ばくの現状を明らかにする。平成28年度は、患者の臨床画像から人体形状を計測し、その形状データに基づいて0.5歳児の頭頚部ファントムの作製を行った。 一方、日本人と欧米人の乳幼児の体の大きさ(頭囲、胸囲、腹囲等)は、各年齢でほとんど違いはないものの、形状は異なることを我々は先の研究で明らかにしている。特に、日本人と欧米人乳幼児の頭部形状の違い(欧米人は長頭型で日本人は短頭型)はよく知られており、両者の形状の違いが画質や線量に影響を及ぼす可能性が示唆された。そこで本研究では、頭部形状の違いが脳の画質や線量分布にどの程度影響を及ぼしているのかを調べるために、1歳児のCT画像を基に、長頭型と短頭型の数学的頭部ファントムを作成し、頭部CT検査時の脳内の線量分布を推定し比較した。さらに、Top-Hat変換型ガウス法を用いて、脳内の画像ノイズ(ノイズSD)のマッピングを行った。その結果、ノンヘリカルCT検査時の脳のノイズ分布と線量分布は、長頭型と短頭型で大きく異なることがわかった。また、短頭型の水晶体線量は長頭型に比べ、15%程高い値を示すことが明らかになった。通常、画質の改善と被ばくの低減効果を期待して、体の凹凸やX線の吸収差が激しい部位では管電流変調機構を使用するが、体が小さく凹凸が少ない乳幼児においては、両効果が成人よりも小さいことが知られている。よって、乳幼児CT検査の最適化においては、体の形状に応じて画質と線量の関係をより詳細に理解する必要があると思われた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度は、日本人型0.5歳児ファントムの上半身の作製を計画していたが、実際には、0.5歳児ファントムの頭頚部しか作製できなかった。先の研究で我々は日本人型3歳児ファントムを作製しており、今回の0.5歳児ファントムにおいても同様の構造、材料、加工法を採用している。ファントム材料には軟組織等価材にアクリル樹脂、骨に石膏、肺に肺等価樹脂を使用し、アクリル樹脂と肺等価樹脂に関しては人体の複雑な形状を再現するため、コンピュータ制御による工作機械でパーツごとに±0.5mmの加工精度でマシニング加工を施している。そのため、体が小さく、骨構造も繊細で複雑な0.5歳児ファントムでは、必然的に各パーツの樹脂の加工技術が高度かつ複雑になり、作業工程の増加と1パーツあたりにかかるマシンタイムの長時間化により、作製費用が予定よりも大幅に超過する傾向にあった。このまま作製を続けると、体幹部の作製には更に時間と費用が掛かると予測されたため、平成28年度は、比較的構造が単純な頭頚部のパーツまでで加工を一旦中断することとした。その後、体幹部の設計の見直しを検討しつつ、骨部分に石膏を流し込む作業に入った。ところが、骨の構造が0.5歳児は3歳児に比べ複雑なため、アクリル樹脂の隙間に流し込む際に気泡が溜まりやすく、気泡が入らないように均一に石膏を流し込む作業にかなりの時間を要することがわかった。いずれの問題も、0.5歳児ファントムの作製前にはある程度予測がついてはいたが、予想以上に作業が難航することが判明した。よって、平成28年度は、0.5歳児ファントムの頭頚部の作製のみでファントムの作製を終えたため、現在、研究に進行の遅れが出ている状態ではあるが、平成29年度は、設計の見直し等をさらに検討し、ファントムの作製を再開する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、平成28年度に作製できなかった体幹部の設計を見直し、予算の範囲内で作製可能かどうかを検討し、可能な範囲で日本人型0.5歳児の体幹部の作製を引き続き行う予定である。作製が完了したファントムの主要な組織・臓器位置に、市販のガラス線量計と自作のSi-pinフォトダイオード線量計を設置するための穴あけ加工を施し、日本人型0.5歳児ファントム臓器線量計測システムを新たに構築する。市販のガラス線量計は、予算内では購入できないため、他施設から借用する予定で了承を得ている。自作のSi-pinフォトダイオード線量計を用いる場合には、放射線照射により各線量計から読み取った出力値(電圧値)を各臓器の吸収線量(mGy)に変換するとともに、発がんリスクを加味した実効線量(mSv)を照射後リアルタイムで算出することが可能な線量計算プログラムを必要とするため、0.5歳児ファントム専用の線量計算プログラムを新たに作製する。また、個々の線量計は、標準電離箱線量計を用いて、臨床で使用されているX線のエネルギーごとに線量校正を行う。校正された日本人型0.5歳児ファントム臓器線量計測システムを乳幼児CT検査における臨床条件で撮影し、被ばく線量を測定・評価する。得られた線量データを、同年齢の乳幼児における文献値や、線量シミュレーション値と比較することで、作製した日本人型0.5歳児ファントムの線量計測・評価における妥当性を検証する。 平成30年度は、作製した日本人型0.5歳児ファントム臓器線量計測システムを各病院のルーチン撮影条件で撮影し、臓器線量および実効線量を測定・評価することで、日本人0.5歳児におけるCT被ばくの実態を調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は、日本人型0.5歳児ファントムの上半身の作製を予定していたが、体が小さく、構造も繊細で複雑な0.5歳児ファントムでは、必然的に各パーツのファントム材料の加工技術が高度になり、作業工程の増加と1パーツあたりにかかるマシンタイムの長時間化によって、作製費用が予定よりも大幅に超過する傾向にあり、構造がより複雑な胸部の作製には時間と費用がさらに掛かると予測されたため、平成28年度は、比較的構造が単純な頭頚部のパーツまでで加工を一旦中断することとした。その後、胸部領域に関しては、0.5歳児の実際の人体形状を損なわないように、現在まで設計の見直しを引き続き行っている。よって、平成28年度は0.5歳児の頭頚部領域のみを作製し、胸部領域は作製していないので、当初予定した費用よりも予算が余った状態となっている。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は、作製予定の日本人型0.5歳児ファントムの体幹部の構造を、マシニング加工がしやすいように設計の見直しを検討し、平成28年度の未使用分と平成29年度の請求分とを合わせて、日本人型0.5歳児ファントムの体幹部の作製にそれらの予算を使用する予定である。ただし、この研究の目的は、日本人乳幼児のCT被ばくをより正確に測定・評価することであるため、ファントムの設計変更により、ファントムの形状が実際の日本人乳幼児の人体構造とかけ離れてしまっては意味がない。よって、予算の範囲内で、ファントム形状を維持できる方法を検討し、作製可能な範囲で人体ファントムを作製する予定である。
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