研究課題/領域番号 |
16K09018
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
福田 光宏 大阪大学, 核物理研究センター, 教授 (60370467)
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研究分担者 |
倉島 俊 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 放射線高度利用施設部, 上席研究員(定常) (50370391)
宮脇 信正 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 放射線高度利用施設部, 主任研究員(定常) (90370478)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | サイクロトロン / ハーモニック加速 / 位相バンチング / 共振空洞 / アルファ線核医学治療 / ホウ素中性子捕捉療法 |
研究実績の概要 |
転移がんや浸潤がんなどの進行がんの治療を可能にするため、アルファ線放出核種を合成した標的剤を投与し、がん細胞に直接取り込ませて、細胞サイズと同程度の短い飛程と100keV/μm前後の高LETを有するアルファ粒子で周りの正常細胞を傷つけずにがん細胞だけをピンポイントで死滅させるアルファ線核医学治療(従来、アルファ線内用療法と呼称)の実用化を目指した数百μA級のヘリウムイオンビーム加速を目的とした高強度小型加速器の要素開発研究を実施する。同様にmA級の陽子ビーム加速により、従来、数十分~1時間必要であった中性子捕捉療法においても、数分程度の治療時間への大幅な短縮を目指す。H29年度は、高強度イオンビームがサイクロトロンに入射した際に空間電荷力によって生じる進行方向のビーム発散を中心領域における位相バンチング法によって抑制するため、加速電圧波形の勾配制御を可能にするハーモニック加速電圧を最大化し、且つ基本波電圧との干渉を低減するための共振空洞の設計を実施し、試験用モデル共振器製作の準備を整えた。また、実用機を想定したビーム軌道解析により加速ハーモニクス毎に得られる位相バンチング効果について評価を行い、h=6では50°を越える幅広い入射位相範囲において+/-10°以下にバンチングできることを明らかにし、位相バンチングシステムの有効性をシミュレーション計算により示した。 従来技術では、サイクロトロン内部でビーム進行方向に位相バンチング効果を生み出す方法はなかったが、本技術は横方向と進行方向の位相空間内のカップリング効果によって進行方向の空間電荷効果によるビーム発散を抑制するユニークな手法であり、サイクロトロンにおける10mA級の大強度ビーム加速を実現するためのユニークな要素技術として価値は極めて高い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高周波電場解析コードを用いて位相バンチング効果を最大化するためのハーモニック電圧を発生させる共振空洞の設計が最適化すると共に、幾何学的軌道解析モデルにより加速ハーモニクスh=6の場合について位相バンチング効果が幅広い初期位相範囲で実現しうることを明らかにできたことから、H30年度に予定している性能試験用共振空洞の製作の目処が立った。
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今後の研究の推進方策 |
基本波電圧及びハーモニック加速電圧を発生させる電極を共存させた共振空洞を製作し、性能試験を実施する。製作に当たっては、基本波加速電圧とハーモニック電圧を安定に同時励振できるようにインピーダンス調整機構を設けると共に、実用機を想定した加速周波数帯域において基本波励振モードとハーモニック励振モードが干渉しないように2つの電極間の位置関係等を最適化する。性能試験においては、基本波電圧とハーモニック電圧を同時に励振したときのローレベル信号の特性をネットワークアナライザーなどで調べる。この際、ハーモニック加速電極と基本波加速電極の間で結合が生じ、障害となるような励振モードが発生した場合には、電極の形状やサイズなどを変えてそのモードの振幅を抑えたり、寄生周波数をズラしたりして、影響を最小限に留める工夫を凝らす。また、周波数を変えながら高調波の振幅の可変性や合成されたハーモニック電圧波形の勾配の限界などを見極め、空間電荷効果を考慮した軌道計算を用いてビームの質と量に与える影響を評価しながらシステム全体の性能評価を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) H29年度に製作を予定していた基本波加速電圧発生用共振空洞は、H30年度に製作を予定しているハーモニック加速電極用共振空洞との電気的及び機械的な整合性を慎重に確認した上で同時励振時の安定性と制御性を確保する必要があることから、個別に製作することによるリスクを避けて同時に最適な機器を設計・製作する方法を優先させることにしたため。 (使用計画) ハーモニック加速電極ローレベルテストベンチ 400千円、基本波加速電圧発生用共振空洞 1,000千円、ハーモニック電圧発生用共振空洞 1,000千円、旅費等 300千円
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