研究課題
本研究では、研究代表者が中心となって構築している救命センター等に搬送された院外心停止患者の多施設共同前向きレジストリを用いて、『院外心停止患者の救命率改善のための治療戦略として、心停止患者のバイオマーカーの測定評価ならび高度集中治療の有効性の検証』することを目的とする。研究初年度となる平成28年度には、研究代表者ならびに研究協力者は、平成24年(2012年)7月~平成25年(2013年)12月までの期間で2749件のデータセットを構築した。これらのデータを用いて、病院搬送後に院内で蘇生行為が実施され、病院到着時採血にてアルブミン値が測定された1460症例を対象に、病院到着時のアルブミン測定値と院外心停止後の社会復帰割合との関係を評価し、アルブミン値が最も低い群に対する院外心停止発生30日後の社会復帰割合の社会復帰割合1.1%(4/365)に対して、アルブミン値が最も高い群の社会復帰は18.7%(74/396:調整オッズ比6.6、95%信頼区間5.4-7.8)と有意に高いことを明らかにした。また病院到着後の心肺蘇生実施中に血液ガスデータが測定された710症例において、自己心拍再開前の60mmHg以下の低酸素分圧グループにおける院外心停止発生1か月後生存割合3.0%(3/528)に対して、高酸素分圧300mmHgのグループの1か月生存は31.2%(5/16)と有意に高いことが示された(調整オッズ比8.0、95%信頼区間2.2-29.8)。研究はおおむね順調に進んでおり、上述の研究の論文化を進める。平成29年度(2017年)中に、2012年7月~2014年12月までの約5000件のデータセットの構築が可能である。これらのデータを用いて、その他のバイオマーカーや、もう一つの課題である病院搬送後の院外心停止患者に対する高度集中治療の有効性についてのデータ解析を実施する予定である。
2: おおむね順調に進展している
研究初年度となる平成28年度において、2749件のデータセットを用いて、心停止患者のバイオマーカーの測定評価の検証を実施した。病院搬送後に院内で蘇生行為が実施され、病院到着時採血にてアルブミン値が測定された1460症例を対象に、病院到着時のアルブミン測定値と院外心停止後の社会復帰割合との関係を評価した。アルブミン値(mg/dL)は4分位として(1Q:<=2.6、2Q:2.7-3.1、3Q:3.2-3.5、4Q:>=3.6)の4群に分け、最も低い群に対する院外心停止発生30日後の社会復帰割合の調整オッズ比を算出した。その結果、もっと低い群(Q1)の社会復帰割合1.1%(4/365)に対して、Q3は10.9%(36/330:調整オッズ比4.7、95%信頼区間3.5-5.9)、Q4は18.7%(74/396:調整オッズ比6.6、95%信頼区間5.4-7.8)と有意に高いことが明らかになった。また病院到着後の心肺蘇生実施中に血液ガスデータが測定された710症例において、自己心拍再開(ROSC)前の動脈血ガス酸素分圧(PaO2)と院外心停止後の予後との関係も評価した。その結果、60mmHg以下の低酸素分圧グループにおける院外心停止発生1か月後生存割合3.0%(3/528)に対して、高酸素分圧300mmHgのグループの1か月生存は31.2%(5/16)と有意に高かった(調整オッズ比8.0、95%信頼区間2.2-29.8)。ROSC前の動脈血ガスPaO2と院外心停止後の1か月生存との関係の研究については、共同研究者が2016年11月の米国心臓学会にて発表を行った。病院到着時のアルブミン測定値もしくはROSC前のPaO2と院外心停止後の予後との関係の研究は論文投稿準備中であり、それゆえ研究はおおむね順調に推移していると考える。
平成29年4月現在、平成26年(2014年)に発生した大阪府下の救命救急センターからの約2000件のデータは既に集積済みであり、消防庁から2014年の院外心停止患者の病院前救護情報も取得済みである。本年度中に、これらのデータのクリーニングならびにこれらのデータ結合を実施し、2012年7月~2014年12月までの約5000件のデータセットの構築を行う。院外心停止患者の社会復帰率は数%に過ぎず、予後因子の探索における確固たる結果を得て、世に発表するためにはより多くの症例を集積することが最も重要である。研究代表者はこれらのデータを用いて、上述の病院到着時のアルブミン測定値もしくはROSC前のPaO2と院外心停止後の予後との関係の再解析を実施した上で論文化する予定である。また、その他のバイオマーカーと院外心停止患者の予後との探索的評価も予定している。もう一つの課題である、病院搬送後の院外心停止患者に対する低体温療法ならびに体外循環式心肺蘇生法などの高度集中治療の有効性についてのデータ解析も実施準備中である。大阪府下の救命救急センター群で始まった院外心停止患者登録は、平成26年(2014年)6月から日本救急医学会による学会ベースのレジストリに拡大中であり、全国規模の院外心停止レジストリとしての分析も可能となっており、日本救急医学会とも連携を図りながら、様々なリサーチクエスチョンに対して多面的なアプローチも検討中である。その一方で、病院前救護における院外心停止患者の予後に関連する因子についてもいくつかの研究課題があり、例えば救急隊によって行われる高度気道確保の有効性評価など院外心停止患者の救命率改善のために多面的な解析を実施する予定である。これら研究課題についても集積されたデータ解析、論文化を進めて行く。研究成果の発信方法としては、英語原著論文、国内、国際学会での発表を予定している。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件)
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