研究課題/領域番号 |
16K09045
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
谷 樹昌 日本大学, 医学部, 准教授 (30451347)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | n-3多価不飽和脂肪酸 / エイコサペンタエン酸 / 冠動脈疾患 / HDLコレステロール |
研究実績の概要 |
縦断研究: 最初に対象640例での血清EPA濃度とHDL代謝との関係を横断的研究手法で検討した。その結果、血清EPA濃度とHDLの粒子サイズ(HDLサイズの指標としてHDL-C/apoA-1を用いた)には相関関係が認められなかったが、同じn-3多価不飽和脂肪酸である血清DHA濃度とHDL-C/apoA-1には負の相関関係があることを示した。また年齢、性別、及び冠危険因子で補正した多変量解析でも血清DHA濃度はHDL-C/apoA-1の独立した負の規定因子であった。更にベースラインから6か月後に追跡可能であった476例を対象に縦断的研究手法を用いて解析したところ、血清DHA濃度の変化量は独立したHDL-C/apoA-1変化量の負の予測因子であることが示された。観察期間に心血管事故の発生は認められなかった。よって血清DHA濃度の増加はHDL粒子サイズを規定する負の予測因子であることが示唆された。以上の結果は論文で公表した(Tani S, et al. Heart and Vessels. 2017. doi: 10.1007/s00380-017-1082-4.)、本研究結果は欧州心臓病学会(ローマ、イタリア、2017)で発表した。
無作為割り付け介入試験:スタチンが既に投与されている冠動脈疾患患者を対象にしたEPAにより介入試験では6か月にEPA投与群ではHDLサブクラスのHDL3の有意な低下が認められ、HDL代謝の動的指標であるHDL2/HDL3比は有意に増加した。またEPA投与後のEPA/AAはHDL2/HDL3比の独立した正の予測因子であった。本結果は日本循環器学会学術総会2018, 3月で発表した。現在、論文を投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
縦断研究: 追跡症例の更なる登録と追跡期間の延長が必要と考えている。またEPAはHDL代謝を改善する可能性があるという研究仮説は“HDL代謝の指標をHDL粒子径の変化として捉えHDL粒子径の指標を実臨床でも簡便に用いることが可能なHDL-C/apoA-1比として検討したが、血清EPA濃度とHDL粒子径には相関関係を認められなく、同じn-3多価不飽和脂肪酸である血清DHA濃度とHDL-C/apoA-1比には負の相関関係が認めていた”この結果と研究仮説の乖離の原因はHDL代謝の評価には多くのアプローチがあり、他のアプローチでのHDLの機能評価、あるいは他の研究デザインで行うことによって異なった結果が導き出される可能性があると考えている。それが以下に示すEPA投与による無作為割り付け試験の結果であると思われる。
無作為割り付け試験: EPAによる介入試験ではHDL粒子径を比重、粒子径の相違で分類されているHDLサブクラスであるHDL2, HDL3比としてHDLの機能の評価を試みた。本研究結果はEPAのHDL代謝改善効果があることが示唆された。今後はHDLの機能評価をHDL粒子径のみならず、HDL粒子数にも焦点を当てて解析を進めていく予定である。頸動脈硬化に対する影響を検討している結果は症例数の登録が予定サンプルサイズに達していなく、登録症例の集積中である。
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今後の研究の推進方策 |
縦断試験: 追跡症例の登録数を増やすとともに、横断試験も同時に行う。研究計画にも記載したが最低3,000例の登録を目標とする。登録症例が不足することが予測された時点で日本大学病院の関連施設に協力を願い登録症例の確保に努める予定である。しかしながら、冠動脈疾患の発生率が低い我が国では統計解析に耐えるだけの冠動脈疾患の再発、あるいは新規発症例が得られない可能性も考慮しなくてはいけない(統計学的パワー不足)。その際にはエンドポイントの変更(試験デザインの変更)も致し方ないと考える。その際にはハードエンドポイントである冠動脈疾患の発生をソフトエンドポイントである血清脂質や炎症性マーカーの変化として設定して研究解析を進める予定である。臨機応変に試験デザインを変更することは想定内のことである。
無作為割り付け試験: EPA投与による無作為介入試験では現在、論文投稿中ではあるが、そのサブ解析としてHDLの機能の評価法としゲル濾過クロマトグラフィー(HPLC: high-performance liquid chromatography)を用いた20分画のHDL粒子径、及び粒子数に焦点を当てて研究を進めていく。EPAの頸動脈硬化に及ぼす効果に関する研究においては登録症例数が少なく、統計学的有意差を算出するサンプルサイズ数が集積できないと判断した時点でエンドポイントを現在進行中のHDLサブクラスの詳細な解析結果から得られたものに変更する予定である。EPAの抗動脈硬化作用を論じるためには様々なアプローチがあり、研究の目的には適合していると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度に日本循環器学会学術総会に採択され発表した、本科研費の研究テーマであるEPAを用いた無作為介入試験の結果を以下のテーマ”Administration of Eicosapentaenoic Acid may Alter High-density Lipoprotein Heterogeneity: A Six-month Randomized Controlled Trial”で現在論文投稿中であるが、American Journal Cardiologyに投稿したところ採択されず、現在はAtherosclerosisに投稿中である。採択された後に投稿料が発生する。その論文投稿料が平成29年度には使用することができなかったことが次年度使用額が生じた理由である。平成30年度にいずれかの国際雑誌に採択された場合には、研究計画に記載したように使用する予定である。
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