研究課題/領域番号 |
16K09046
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪国際がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
伊藤 ゆり 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪国際がんセンター(研究所), その他部局等, 研究員 (60585305)
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研究分担者 |
福井 敬祐 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪国際がんセンター(研究所), その他部局等, 研究員(移行) (50760922)
杉本 知之 鹿児島大学, 理工学域理学系, 教授 (70324829)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 生存時間解析 / がん登録 / データベース / 予後予測モデル |
研究実績の概要 |
個別化医療の時代において、がん患者や医療従事者の意思決定を支援するために、リアルワールドデータを用いたがん患者の予後予測モデルを構築することを目的とし、生存時間解析における樹木構造接近法による予後予測モデルやリスクスコアに基づくリスク分類法やより簡便なリスク分類法について、実際のがん患者のデータベース(がん登録・診療科データベース等のリンケージデータ)を用いて、その有用性及び限界を検討している。特に、臨床現場で役立つ予後予測モデルの構築を目標とするため、臨床医の意見の反映が必要となる。また、比較的データベースが充実しているがんだけでなく、他疾患へ適用可能にするためにも、方法論の整備のみならず、適用手順と課題について整理する。 研究計画・方法:臨床医の協力を得て、実際のがん患者のデータベースを用い、それぞれの疾患の特徴およびニーズに応じた予後予測モデルを検討している。再発など複数イベントを含む階層構造を持ったデータの解析手法などの統計的課題に関しては、数理統計研究者との共同研究により取り組んでいる。平成28年度は自施設におけるデータベースを用いたがん患者の予後予測モデルの構築を行った。平成29年度は非小細胞肺癌に関する研究成果を発表および論文草稿を行った。また、方法論の精緻化を行い、Briorスコアによる予後予測指標の評価を行った。また研究集会を開催し、関連の研究者と意見交換を行った。最終年度は、初年度の分析より把握した課題の整理および適用手順をまとめ、論文の公表を行う。これらの成果を元に、より一般化可能性の高い全国規模のデータベースへの適用を試みる。 現状で利用可能な複数データベースを用いて、最新の統計的手法を適用した予後予測モデルの構築手順を確立し、疫学・統計の専門家だけでなく、臨床医の意見を取り入れて作成することで、臨床現場で活用可能な予後予測モデルの構築が可能としたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者がH29年度まで所属した大阪国際がんセンターの院内がん登録データベースと診療科データベースおよび入院時生活習慣調査データベースを突合した非小細胞肺がん患者のデータに、がん死亡の競合リスクを考慮した過剰死亡ハザードモデルに基づく樹木構造接近法を適用し、予後予測モデルを作成した。選択された最適樹木により1612名の非小細胞肺がん患者は12のサブグループに分類された。各グループの10年相対生存率及び10年以下の制限付き生存時間中央値によれば、予後の異なる集団に分類できた。本研究成果は論文投稿の予定である。また、所属施設のデータのみならず、多施設共同の収集データについても入手可能かどうか検討を行っている。 統計的手法の検討としては、Survival回帰樹木法などにおいて現れる複数の候補樹木構造の中で,どのモデルがより最適であるかを検討するために,有用な予測指標を用いることが必要であるが,本年度は,予測指標としてBrierスコアをとりあげ,相対生存モデルの中でのBrierスコアの点推定の方法を導出した.さらに,導出された点推定の漸近分散の定式化を行うことが必要であり,その準備のためのシミュレーション実験を行った.本研究成果については、計算機統計学会において、報告した。現在、論文投稿準備を行っている。 なお、平成29年8月には、生存解析に関する研究者間での意見交換を行うために、研究集会を大阪国際がんセンターにおいて開催し、競合リスク存在下における生存時間解析や、階層構造を考慮した過剰死亡モデル、過剰死亡モデルによる樹木構造接近法、またそれらの応用事例を各演者が発表し、参加者と学術的意見交換を行った。
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今後の研究の推進方策 |
非小細胞肺癌のみでなく、他の部位のがんにも範囲を広げ、過剰死亡ハザードモデルに基づく樹木構造接近法の適用を行い、予後予測モデルの構築を行うとともに、高齢者や合併症を持つ患者などの予後予測モデルに関しても、分析を進める。樹木構造接近法以外の予後予測モデルに関しても、臨床医の利用状況の想定し、簡便なものを検討する必要がある。現状のデータベースでは、治療内容の詳細や合併症の情報がないため、DPCやレセプトデータ等との突合が可能か、またそれにより、より精度の高い予後予測モデルの作成が可能かについても検討課題である。単一機関のデータベースだけでなく、代表性の高いデータベースへの適用も準備を行っていく。特に学会・研究会がベースとなって収集しているデータベースに関して、二次利用が可能であるか、関係者との協議を進める。 統計的手法の開発においては、平成29年度に実施した研究集会が評価を得たため、今後、学会におけるセッションを行う予定である。最適樹木を選択するBrier Scoreの検討に加え、最新のがん死亡競合リスク調整手法や、過剰死亡ハザードの階層構造モデリングなどの内容についての情報を共有する予定である。また、それらに関する和文での解説文等の投稿も予定している。 最終年度を迎えるにあたり、予後予測モデルの構築手順のまとめを行う。わが国の現状におけるデータベースの利用可能性についてまとめ、それらを使用する上での注意点や障壁に関しても記述する。その際、臨床医および疫学・統計学専門家の複合的な意見を反映する。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文投稿準備に必要な英文校正費用や投稿費用などが次年度持ち越しとなった。また当該年度に予定していた国際学会参加などを別の研究費で支出したため。
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