認知症患者、中でもアルツハイマー病(AD)患者の増加は著しく、ハイリスク群への予防的介入のための簡便なバイオマーカー開発がのぞまれる。尿は非侵襲的に採取できる生体試料であり、プロテオミクス解析にも適した素材である。本研究の目的は尿を用いた ADの早期診断、予測バイオマーカーの探索を行うことである。 本研究では①AD患者尿、認知機能正常対照尿18検体に対し非標識質量分析(LC-MS/MS)によるプロテオミクスを行った。同定されたタンパク質をラベルフリー法により定量した。①-(i)患者尿で有意に増加あるいは減少したタンパク質群にはリソソーム、糖代謝、補体活性、リポタンパク質代謝、HSP90シグナリング等に関するものが多く含まれていた。近年ADの背景に全身の炎症性変化や動脈硬化、糖尿病等が関与することが示唆されており、本研究結果はAD患者尿に、このような全身性変化が尿中成分の変動として反映されている可能性を示唆した。この結果について論文化しDementia and cognitive disorder extra誌に投稿発表した。①-(ii)質量分析結果から推定された複数の候補タンパク質について、質量分析と同じ検体を用い、ELISAによる尿中濃度の測定を行った。タンパク質AはELISAにおいても質量分析結果同様に有意にAD尿で増加を示した。②本年度は昨年度に引き続き、国立長寿医療研究センターバイオバンクから譲渡されたAD患者尿13検体、軽度認知障害(MCI)尿5検体、対照尿32を用いて、質量分析結果から推定された複数の候補タンパク質のELISAによる測定を行った。その中でタンパク質Bは、①のELISA測定結果と合わせると患者群で有意に増加し、AD尿バイオマーカー候補としての可能性が示唆された。
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