高密度リポ蛋白(high-density lipoprotein:HDL)コレステロール(cholesterol:HDL-C)は抗動脈硬化性の量的指標と言われてはいるが、HDLの性状や機能を加味した質的指標による検討が依然として必要な状況にある。本研究課題では、HDLのサイズや構成アポ蛋白によるHDL不均一性に鑑み、申請者らが開発したサイズ関連酸化HDL(小型サイズ関連酸化HDL[HDLの新規質的指標])の測定意義を探索してきた。本年度は、生活習慣とHDLの引き抜き能に着目して、一般内科の受診者(133人、49歳[平均]、男性65%、喫煙29%)において以下の結果を得た:全体のデータではlow-density lipoproteinコレステロール=115 mg/dL(平均)、HDL-C=58 mg/dL(平均)、中性脂肪=118 mg/dL(平均)、小型サイズ関連酸化HDL指標=3.3(中央値)、HDLのコレステロール引き抜き能(NIH方式)=9.9%であった。非喫煙群に比べて喫煙群でHDL-C値は低く、また酸化HDLと引き抜き能の値は高い傾向にあった。引き抜き能に対する相関分析では、非喫煙群においてHDL-Cとの係数=-0.17(p>0.05)、酸化HDLとの係数=0.32(p<0.01)で、喫煙群においてHDL-Cとの係数=0.19(p>0.05)、酸化HDLとの係数=0.48(p<0.01)を示した。引き抜き能に対する喫煙の影響に一致した見解はないが、今回、引き抜き能と小型HDLの酸化との正の関連性が非喫煙習慣に比べて喫煙習慣下で強いことが新たに示され、これはHDLの性状や成熟に対する喫煙の影響を反映した所見とも推測された。予防医学や臨床医学の現場において、喫煙関連疾患の病態解明や禁煙のバイオマーカーとして新たなHDLの質的管理の道が拓ける可能性がある。
|