研究課題/領域番号 |
16K09071
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
桑原 和代 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (70627637)
|
研究分担者 |
岡村 智教 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (00324567)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 地域差 / CAVI / 動脈硬化性疾患 / 高血圧 / 脂質異常症 / 糖尿病 / 喫煙 / 危険因子 |
研究実績の概要 |
脳・心血管疾患の発症率には地域差があることが知られているが、主要な原因である動脈硬化所見やその進展要因の地域差についてはあまり明らかにされておらず、その解明は公衆衛生上の課題である。また縦断的に動脈硬化の進展と関連する要因を一般集団で明らかにした報告も少ない。潜在的な動脈硬化を非侵襲的に把握する手法として脈波伝播速度を用いる方法が普及しているが、その中でもCardio-Ankle Vascular Index (CAVI)は、気温や心理的なストレスによって大きく変動する計測時の血圧値の影響を受けない指標である。本研究は、研究1)生活習慣の異なる都市部(神戸)と離島(鹿児島)のCAVIを比較して、その規定要因としての想定される様々な危険因子の影響が異なるかどうかを比較・検証する、研究2)大規模な健診受診者集団においてCAVIの推移を経年的に調査しその上昇に寄与する危険因子を明らかにする、の二つの研究で構成されている。研究初年度は、CAVIに関する文献レビューに加えて、研究1)の本解析に先立ち神戸と鹿児島のデータから、それぞれの動脈硬化性疾患のリスクが高いと予想されるCAVI 9.0以上とそれ未満の群における対象者の背景を解析した。これにより、神戸と鹿児島の研究対象者の背景が異なる可能性が示唆された。研究2では(財)日本健康増進財団が実施した健診受診者の長期追跡データを用いて、HbA1c、ついで高血圧、年齢がCAVIの増悪に影響を与えることを明らかにした。引き続き2017年度は対象者の背景要因をマッチングさせたデータセットの作成により、研究1)の本解析を実施する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年度は、CAVIやその規定要因に関する文献レビューに加え、都市部のデータは神戸市のコホートデータ(神戸研究 厚生労働省科学研究:循環器疾患における集団間の健康格差の実態把握とその対策を目的とした大規模コホート共同研究:研究代表者 岡村智教」)と離島のデータは鹿児島県のコホートデータ(Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort Study; J-MICC Study鹿児島サイト 文部科学省科学研究「分子疫学コホート研究の支援に関する研究:研究代表者 浜島信之、鹿児島コホート研究分担者:嶽崎俊郎」)の既存の匿名化データを用い、まず各コホートにおける集団の特性を把握するため、動脈硬化性疾患のリスクが高いと予想されるCAVI 9.0以上とそれ未満の群における対象者の背景を解析した。その結果、平均年齢は神戸vs.鹿児島で男性58.6歳vs.53.6歳、女性59.2歳vs.53.8歳、BMI、収縮期血圧、拡張期血圧、空腹時血糖値は有意に離島が高く、HDLコレステロール及びLDLコレステロールは都市部が高い値を示した。CAVI値の平均は男女とも都市部で平均年齢が高いにもかかわらず、両地域で同程度を示した(神戸vs.奄美:男性7.9 vs.7.9 (p=0.39)、女性7.6 vs.7.6 (p=0.16))。また(財)日本健康増進財団における健診受診者13,252人の平均4.9年間の追跡では、CAVI9.0以上は517例発症した。本研究では、男女計における動脈硬化リスクファクターのうち最もインパクトがあるのは、HbA1c、ついで高血圧、年齢の順であるという結果が得られた。いずれの研究も研究分担者・連携研究者・研究協力者の協力を得て協力を得て、研究目的の達成に向かって順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
2017年度は、研究目的1)生活習慣の異なる都市部(神戸)と離島(鹿児島)のCAVIを用いて、様々な危険因子の影響が異なるかどうかを比較・検証する。2016年度の成果を踏まえて、都市部(神戸研究)と離島(J-MICC Study鹿児島サイト)においてCAVIを規定する因子について地域間の比較検討を行う。具体的には、動脈硬化リスクファクターと考えられるHbA1cや血圧などの健診データの比較に加え、喫煙などの生活習慣についても調査票で情報を得ているため、特に動脈硬化性疾患の危険因子に注目して両群の比較を行う予定である。比較に当たっては、予備解析において特に解析対象者の年齢や対象者の生活歴(対象者の背景)が大きく異なっている可能性があったため、その影響を最小にするために層別化や単純なマッチング、もしくは傾向スコアを利用したマッチング解析も検討する。なお、神戸及び鹿児島の両コホートとも追跡調査が継続されており、CAVIの経年変化を見る目的でデータの追加収集も予定している。また、2017年度の後半からは、研究2)の論文公表を進めると同時に、職域を中心とした健診受診者集団と地域集団(神戸、鹿児島離島)との背景要因を調整した上での比較検討を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度は予備調査として既存資料を使用したため更新が必要なCAVI計測装置の購入を次年度に見送ったこと、追加データ収集に伴う実地調査についても次年度に行うこととしたため。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度は、本年度に使用できなかった予算を効率的に活用して、新型CAVIの購入や各コホート調査現場への訪問や実地調査を行う。また連携研究者との解析についての打合せや学会での成果発表も順次実施する。
|