研究課題/領域番号 |
16K09076
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
西脇 祐司 東邦大学, 医学部, 教授 (40237764)
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研究分担者 |
朝倉 敬子 東邦大学, 医学部, 准教授 (40306709)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | リンケージ / ライフコースアプローチ / 疫学 |
研究実績の概要 |
1986 年に報告されたBarker らの研究を嚆矢として、Kuh らは「胎児期、小児期、思春期、青春期、そしてその後の成人期における物理的また社会的な曝露についての、その後の健康や疾病リスクへの長期的な影響に関する研究」としてライフコース疫学を発展させてきた。このライフコースアプローチの観点から、長野県S地方の小中学生の健診データ(血液検査、血圧、体格、生活習慣項目、ストレスを含む)と成人後の健診データを突合する世界的にも稀有なリンケージ研究を立ち上げた。小中学生の健診データは、1978 年から30 年以上蓄積されているため、のべ14,000例に上る。このデータのうち、個人個人で小学校1 年生から中学校3 年生まで揃うのは1981 年以降であり、時系列的にtrajectory(軌跡)が観察可能な者は4500名余りである。さらに、成人データと連結可能であったのは500名余りであった。昨年度はデータのクリーニング、整理に費やした。本年度は、血中脂質の値に注目し、まず小中学生時期のtrajectoryを男女別に描くことを実施した。男女別のTC値のtrajectoryをみると、コレステロールは、成長期に消費され一旦減少した後、再び増加している。この、減少、増可の推移は女児の方がやや早く始まる。同じ学年で比べると、女児の方が、全体にやや数値が高い。つぎに、成人後健診データと連結可能であった504名について、成人後の低HDL-C血症の有無別に小児期HDL値のtrajectoryを描いた。成人後低HDL-C血症の者では、小児期より既にHDL低値を呈し、その後成人までtrackingしていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね計画通りに進捗している。 本年度は、血中脂質の値に注目し、まず小中学生時期のtrajectoryを男女別に描くことを実施した。小中学生時のデータは、のべ4518名、データ数は27647件であった。これを受診年、学年別に集計した。TC値については、73件の欠損値があり、これを除いた27574件のデータに基づいて、男女別のTC値のtrajectoryをみると、コレステロールは、成長期に消費され一旦減少した後、再び増加している。この、減少、増可の推移は女児の方がやや早く始まる。同じ学年で比べると、女児の方が、全体にやや数値が高い。 つぎに、成人後健診データと連結可能であった504名について、成人後の低HDL-C血症の有無別に小児期HDL値のtrajectoryを描いた。成人後低HDL-C血症の者では、小児期より既にHDL低値を呈し、その後成人までtrackingしていることが示唆された。こうしたtrajectoryの解析には、経験豊富な研究者の助言を得ながら実施した。 この成果は、東邦大学5学部合同学術集会にて発表し、他研究者と研究内容について討議を行った。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度はデータのクリーニング、整理を実施し、小中学生のべ約4500名、リンケージデータとしては約500名のデータセットを整えた。このデータセットをもとに、平成29年度にはとくに血中脂質値について小中学生時期のtrajectoryを男女別に描くこと、成人後の低HDL-C血症の有無別に小児期HDL値のtrajectoryを描くことを実施した。研究の最終年度である平成30年度は、現在進めている血中脂質についてのtrajectory解析をさらに精緻に進捗させ、結論を得たいと考えている。解析については、これまで同様、脂質代謝の専門家、およびtrajectory解析の専門家の助言を得ながら行う。成果は国内外での学会発表に加え、英語論文として結実させたいと考えている。 さらに、脂質に加え、尿酸値、血圧値、メタボリックシンドローム及びその構成尺度のなどについても同様の解析を加えていきたいと考えている。分析対象の優先度は、脂質代謝、循環器の専門家に加えて、小児内分泌の専門家の助言を得ながら行う予定である。 こうした一連の成果から、望ましい小児期健康管理についての提言を行うことが最終目標である。
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