研究課題/領域番号 |
16K09093
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
色川 俊也 東北大学, 環境・安全推進センター, 准教授 (70375179)
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研究分担者 |
黒澤 一 東北大学, 環境・安全推進センター, 教授 (60333788)
小川 浩正 東北大学, 環境・安全推進センター, 准教授 (90361162)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 低濃度化学物質曝露 / 吸入曝露の生体指標 / 呼気一酸化窒素 / 肺機能 / 就業期間 |
研究実績の概要 |
平成28年度は1.化学物質の主なばく露経路である吸入ばく露(特に慢性・低濃度ばく露)の健康影響をモニタリングするのに適した生体指標(バイオマーカー)を検索し同定する。2.同定したバイオマーカーを基にして、化学物質を取り扱う作業に従事する労働者の健康影響を客観的・定量的に評価できる指標を提案する。のうち主に1.に関する研究を進めた。研究計画では、1週間(=週40時間)の化学物質取扱い作業の前後で”化学物質低濃度吸入ばく露労働者のFeNO、鼻腔内pH、唾液内コルチゾル濃度、肺機能、及び個人曝露量の測定”を①ホルムアルデヒド(FA)を中心にとり扱う病院病理部の労働者、②複数の化学薬品を取扱う作業場の労働者、を対象集団として実施する予定であったが、平成28年度には、①の調査測定(曝露群:n=33、非曝露群:n=32)に関して、FeNOおよび肺機能検査のみ測定した。その結果、病院病理部に勤務する労働者は、1日8時間、週40時間程度の勤務中に、FA、キシレン、エチルベンゼン、アセトンなどに曝露しているが、いずれも許容濃度以下の曝露であった。しかし、気管支喘息の現病歴・既往歴がある者は、調査期間前後でFeNOが有意に上昇し、気管支喘息の既往がない者では、FeNOは有意に低下した。また、肺機能検査のうち努力肺活量(FVC)および一秒量(FEV1)について、気管支喘息の有無に関わらず、曝露群では調査期間前後で有意な低下を示した。また、曝露群の調査期間前のFEV1を目的変数、身長、年齢、就業期間を説明変数とした重回帰分析では、FEV1と就業期間の間に年齢よりも強い有意な負の相関が認められた。以上の結果から、許容濃度以下の低濃度化学物質曝露でも、気道に影響を及ぼしていることが明らかとなり、FeNO及びFVC、FEV1は、気道曝露影響評価の指標として有効である可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現段階では、ホルムアルデヒドを主体とした曝露に限った対象集団での調査結果であるため、他の化学物質曝露集団に関しても同様の調査を行い検証を行う必要があることや、いずれの集団でも唾液のpHやコルチゾール測定が実施できなかった点では予定よりやや遅れている印象がある。しかし、まとめた研究成果は、Journal of Occupational and Environmental Medicine に投稿し、最終の訂正原稿も2017年3月上旬に受理されており、「Fractional Exhaled Nitric Oxide (FeNO) and Spirometry as Indicators of Inhalation Exposure to Chemical Agents in Pathology Workers」のタイトルで、2017年5月または6月の同誌に掲載予定であることから、総じて概ね順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究結果では、化学物質曝露前後のFeNOの有意な変化が、気管支喘息の現病歴・既往のある集団と気管支喘息既往のない集団では、我々の事前の予想に反して、変化の方向性が違った有意な変化が認められた。特に気管支喘息なしの集団で、FeNOが有意に低下したことは、低濃度化学物質曝露と関連した気道影響を反映した変化であるか否かを明らかにすることが重要であると思われる。また、FAを主とした化学物質曝露での気道影響反応を明らかにした後には、同様の生体指標(FeNOや肺機能)の変化が他の化学物質曝露においても認められるか否かを検証する必要があると思われる。そして、それらの結果を基にして吸入曝露による人体への有害性を評価できるリスクアセスメント指標を提示する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品購入では、口腔内pH測定機器として、当初予定していた、口腔内pHモニターPH-201Zではなく、リフレクトクァントプラスの試験紙キット購入で実施することにした。しかし、その一方で、ホルマリンのパッシブサンプラーや有機ガスモニターは、当初の予定個数以上に購入した。また、旅費では、国内学会一回の参加であったため当初の見積もりより使用額が少なかった。謝金も予定より少なかった。これらが総じて、次年度使用額が、80,564円となった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、平成28年度の調査研究を通じて、呼気NOを低下させる原因として気道の酸化・還元反応が影響している可能性があると推測しており、その指標として、呼気一酸化炭素の測定を考えている。呼気一酸化炭素測定機器の購入などの費用に平成28年度生じた次年度使用金を当てる予定である。
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