研究実績の概要 |
大気汚染物質のうち、粒子径が2.5μm以下の微小粒子状物質(PM2.5)は循環器疾患・死亡を増加させることが示唆されている。PM2.5曝露から循環器疾患に至る経路は、動物実験よりいくつかの仮説(肺の炎症を介した経路、粒子が直接肺の血流から全身血管に及び動脈硬化を進展させる経路、肺神経受容体から自律神経を介した経路)が提案されているものの十分明らかにはされていない。本研究では、自律神経系を介した経路について、Allostatic State Mapping by Ambulatory ECG Repository (ALLSTAR)研究のホルター心電図に関わるビッグデータを用い、疫学的手法で検討した。 2010~2013年の7都府県で医療機関に受診してホルター心電図検査を行った20歳以上の患者から得られた心拍変動の情報と、各地域の大気汚染測定局のPM2,5データを結合し、年齢、性別を考慮した解析を行った。 統計解析の結果では、日々のPM2.5濃度上昇が、当日から数日間にわたる心拍のゆらぎの指標(SDNN, SDANN, VLF, ULF)の低下と関係していた。心拍変動は自律神経の活動状態を反映しており、心拍変動指標の低下は心疾患や心臓突然死のリスク増加と関係している。一方、PM2.5と心拍変動の関連には地域差が見られた。 以上の結果より、高濃度のPM2.5への曝露は、心疾患患者の自律神経系への影響を与え、循環器疾患発症のトリガーとなりうることを示された。本研究の結果は、PM2.5曝露による循環器疾患発症のメカニズム解明の知見となる。関連の地域差は粒子成分の違いが関わっている可能性もある。
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