研究課題/領域番号 |
16K09106
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
苅田 香苗 杏林大学, 医学部, 教授 (40224711)
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研究分担者 |
吉田 正雄 杏林大学, 医学部, 准教授 (10296543)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 自律神経機能 / 心拍変動 / PM2.5 / 副交感神経 |
研究実績の概要 |
平成30年度は、これまでのフィールド調査から得られた自律神経機能データの解析と既存文献のシステマティック・レビューを行った。 周波数解析を行った心拍変動データは、平成28-29年度に調査した山梨県上野原市(対照地区)および鹿児島県鹿屋市に在住・通学する年齢19~21歳の健康な男子大学生各16(計32)名分であり、ウェアラブル心拍センサにより安静座位・歩行時それぞれにつき約30分間計測したうち、前後5分を除く20分間のデータを解析した。その結果、2地域の被験者間で安静時および歩行時のHF成分値(副交感神経の指標となる高周波数帯パワースペクトル積算値)やLF/HF等に有意な差異は認められなかった。2カ月後再調査の参加が可能であった鹿屋市15名の学生では、繰り返し計測による交感・副交感神経指標値に相関がみられた。調査地最寄りの一般環境大気測定局における年平均SPM, PM2.5濃度は、桜島火山活動が不活発期であったため、鹿屋市では上野原市の高々1.5~2倍のレベルであった。 次にPM2.5曝露による自律神経機能への影響について、PubMedと医学中央雑誌web版でキーワード検索し、抽出された計173報のうちPM2.5および自律神経系の指標値が明示されている疫学研究32報に絞り文献レビューを行った。比較的高レベルのPM2.5曝露の場合では、心拍変動が総体的に低下することが示されていた(メタ解析によるPM2.5の10μg/m3上昇当たりの低下率はLF,HF成分ともに1~3%)。冠動脈疾患や脳血管障害を有する患者では、HF成分等への影響が健常者より強く認められた。われわれの調査地と同等レベルのPM2.5曝露環境下では、副交感および交換神経指標への一貫した影響は既存文献においても認めらなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度と同様に桜島の噴火活動は不活発な状況が続き、降灰量も少なく、噴火による明らかな大気中SPMやPM2.5濃度の上昇が観察されなかった。そのため、平成30年度に現地における再調査は実施せず、これまでに収集・計測済みの32名分の自律神経機能データの解析と関連文献のシステマティック・レビューを行った。
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今後の研究の推進方策 |
国内外火山の噴火活動状況の予測は難しく、桜島一箇所のフィールドのみでは調査とデータ集積に限界があるため、霧島市・新燃岳などほかの火山周辺地域でのフィールド調査の実行可能性を検討する。突然の爆発的噴火に備え、日頃より現地研究者に連絡および協力を依頼し、大気環境データと降灰サンプルを収集するとともに、現地周辺の大学生にウェアラブル心拍センサを貸与して装着時データを蓄積するための介入研究を計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度も平成28、29年度と同様、桜島の噴火活動は不活発な状況が続き、降灰量も少なく、噴火による明らかな大気中SPMやPM2.5濃度の上昇が見られなかった。噴火の兆しを見据えつつ現地再調査の機会をうかがったが実施し得ず、本年度はこれまで収集した自律神経機能データの解析と関連文献のシステマティック・レビューを行ったため、旅費や物品費、謝金等の使用経費が予定額を下回った。 桜島火山の噴火が次年度も活発化しない状況であれば、ほかの国内火山噴火地域における調査の実行可能性を検討し、できる限り他の地域でのフィールド調査を試み、データ集積を進める予定である。具体的には、霧島市・新燃岳が再び大噴火を起こした際には、予め依頼した現地研究協力者を通して大気環境データと降灰サンプルを収集し、さらに居住地区別の降灰健康影響調査についても検討中であり、前年度使用予定であった旅費、謝金、会議費等を次年度の予算に振り替えて計上する。
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