研究実績の概要 |
最終年度は、本研究課題に関する近年(過去20年間)の知見を整理するため、PubMed検索を2通り行い、次の文献を収集・レビューした。(1) PM2.5曝露、自律神経機能を検索キーワードとし、抽出された計173報のうち、環境測定値と自律神経指標が明示されている32文献。 (2) PM曝露、循環器・心電図モニタリングを検索キーワードとし、抽出された計186報のうち、疾患無しの者で心電図パラメータのリスク推計値が提示された原著論文12文献。 (1) PM2.5の影響に関する研究では、環境基準値以上の中~高レベルのPM2.5に曝露された場合に心拍変動が有意に低下し、冠動脈疾患や脳血管障害患者でHF成分等への影響が健常者より強く示された。リスク推計値をラインダム効果モデルで統合したメタ解析によると、PM2.5の10μg/m3上昇当たりの低下率はLF,HF成分ともに1.5~2.5%であった。 (2) 循環器疾患や他の自覚症状がない者でPMレベルと心電図をモニタリングした調査では、その結果の多くが、PM上昇に伴う循環機能の悪化(不整脈、心血管イベントの発生、心拍変動指標の遅延等)を示していた。一方、有意な影響が見られなかった5報の研究結果では、PM曝露レベルが低い傾向にあり、観察エンドポイントは様々で、上室性期外収縮(SVE)、SDNN%変化率、ST異常、T波異常、脈波伝播速度等であった。 関連文献から考察すると、今後火山活動が活発化し、われわれの調査時点よりもPM2.5等が上昇した際に、周辺住民の自律神経機能が低下する可能性は高い。自律神経系・循環機能の悪化には、環境基準値以上のPMレベルの上昇や共存曝露物質の関与が考えらえるほか、PM自体の物性(発生源、化学組成)、曝露状況(生活様式、身体・生理状態、職業性曝露)なども交絡すると考えられ、研究データのさらなる蓄積が求められる。
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