本科研費で実施した主な研究は以下の3つである(1)某自治体職員を対象とした前向きコホート研究を分析し、がんサバイバー復職者はがん既往の無い就労者に比べて自立度や主観的健康感が低いことが示された。(2)日本におけるがんサバイバーの復職の動向についてのシステマティックレビューにおいて、がん患者の53.8~95.2%が復職しており、胃癌では42.9~93.3%、大腸等の腸管癌では66.7~84.2%、女性器癌(子宮癌、卵巣癌)では42.9~95.2%、乳癌では45.0~89.7%の復職率が報告されていた。既報は横断研究(研究実施時に生存している者のみが対象者)が多く、診断時の情報(就労状況、癌部位・ステージ・治療など)が十分に把握されていないものもあった。しかしこれまでに考えられていた以上に復職率が高く、過去であれば復職できていなかった状態のがんサバイバーが復職している現状が示唆された。(3)がんサバイバーの復職とうつの関連を調べた研究は国内ではほとんどなく、海外の報告も含めてシステマティックレビューを行った。結果、復職しているがんサバイバーの方が復職していないがんサバイバーよりもうつ有病率が低いという結果は一貫しては示されなかった。がんサバイバーの治療と就労の両立支援は、復職を通じた社会参加によりがんサバイバーの健康を総合的に改善するという仮説で進められていると推測する。しかし、本研究結果からはがんサバイバーは復職してもなお精神的な観察・支援を必要とする可能性が示唆された。 本研究が採択されて以降、がんサバイバーの復職における産業医・臨床医の連携について様々なひな型が提案されている。しかし、復職率が過去に比べて高い可能性、復職後も身体・精神症状の残存や主観的健康感の低下の可能性を踏まえ、がんサバイバーの復職における産業医・臨床医の連携のあり方を改めて提案した。
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