研究課題
麻疹ウイルスは、経気道的に侵入してリンパ球系細胞に感染し全身感染を起こした後、気管や尿管の上皮細胞で増殖し、内腔側へ感染性粒子を放出することにより体外へ出る。リンパ球での増殖能は体内伝播に、一方、上皮細胞での増殖は、個体間でのウイルスの伝播に関係していることが考えられる。本研究では、遺伝子型の異なるウイルスの上皮細胞での増殖の違いについて検討し、流行との関連を明らかにしようとしている。本年度は、1990年代に国内で流行したD3型と2000年以降中国から侵入して置き換わったH1型について比較を行った。まず、(1)D3型ウイルスを基に、H遺伝子とM遺伝子をH1型に置換した組換えウイルスを作製した。そして(2)これらのウイルスを種々の宿主細胞に接種したところ、リンパ球系細胞B95aでは同程度の増殖を示したのに対し、HT29(ヒト結腸腺癌由来極性上皮細胞)やVero/SLAMなどの上皮細胞での増殖が大きく異なることを認めた。また(3)上皮細胞における増殖の違いには、ウイルスの感染性粒子形成能ならびに細胞融合能のいずれもが関わっていた。さらに(4)この違いは、M遺伝子よりむしろH遺伝子に依存していることが明らかとなった。以上より、D3型とH1型の麻疹ウイルスでは、リンパ球系細胞での増殖に違いはなく個体内の感染拡大に大差はない一方で、上皮系細胞での増殖が異なり、これが体外排出、ひいては個体間の感染と流行に影響を与える可能性を示唆する結果が得られた。
2: おおむね順調に進展している
D3型ウイルスを基に、H遺伝子とM遺伝子をH1型に置換した組換えウイルスを作製し、リンパ球系細胞と上皮系細胞で増殖が異なることを示し、その責任蛋白質がH蛋白質であることを明らかにすることができた。また、ウイルスの感染性粒子形成能と細胞融合能のいずれもが関わることを認めたが、一方で、その分子機序と極性上皮細胞における感染拡大機序の解析が途上であり、(2)の評価とした。
前年度の研究を続けるとともに、(1)H蛋白質上で、上皮細胞における増殖を左右するアミノ酸を同定し、(2)感染性粒子形成能について粒子形成を担うM蛋白質、細胞融合能について融合活性を持つF蛋白質など他のウイルス蛋白質との相互作用を調べるなどして、分子機序を解析する。さらに、(3)影響を及ぼす宿主細胞因子についても検索を進める。そして、(4)他の遺伝子型の麻疹ウイルスについて、上皮細胞での増殖を検討すると共に、H蛋白質構造についてD3型、H1型と比較することにより特徴を抽出し、上皮細胞での増殖を決定するメカニズムの解明を図る。
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Journal of General Virology.
巻: 98 ページ: 143-154
10.1099/jgv.0.000670