研究実績の概要 |
今年度は、引き続きASDの「情動反応非定型性」に着目し、非接触型情動反応評価のASD の診断における有効性を検証した。対象はASD患者20名および年齢・性別をマッチングした定型発達成人(TD)男性18名であり、視線計測を用いてASDの他者視点の特性について検討した。またこれらと合わせ、質問紙調査を実施し、知能・性格特性の簡易評価を行った。また研究代表者によりADOSも実施した。方法は、Samsonら(2010)のパラダイムに従い、一次の視点取得課題を行ってもらった。結果は、心の理論に基づく一次の視点取得課題においてTDに比べ、ASDに成績低下がみられた。ASDの視覚的視点取得能力に関する先行研究では、他者の目に“対象がどのように見えるか”と問う2次の視点取得課題では、定型発達群に比べ、ASDに成績低下がみられる一方、本研究で用いたような(他者の目に対象が見えるかどうかと問う)一次の視点取得課題の成績に群間差はみられないということが報告されていた(Pearson et al, 2013)。しかし、本研究の結果は、一次の視点取得課題においてもASDが定型発達群とは異なるストラテジーを用いている可能性を示唆している。視覚的視点取得は、所謂「心の理論」の基盤となる認知能力と考えられているため、本研究の知見は、ASDにおける社会的コミュニケーションの非定型性の本質解明において重要な示唆を与える。本研究の成果は海外論文に受理された(「Lack of Implicit Visual Perspective Taking in Adult Males with Autism Spectrum Disorders」土居裕和、金井智恵子、 津村徳道、その他。2020。Research in developmental disabilities. 5.:99)今後は生涯発達という視点から幼児期、児童期のASDの情動反応非定型性に関する研究を行う。
|