研究実績の概要 |
本研究は、フィリピン都市部貧困層における保健所において、結核対策の枠組みの中で喫煙対策を実施する体制が、禁煙率向上と結核患者治療成功率維持との両方に有用であることを明らかにする事を目的に実施した。方法として、フィリピン国マニラ首都圏マニラ市内の1地区(人口約30万人)を非介入地域、他の1地区(人口約30万人)を介入地域として選定し、非介入地域の保健所では、結核患者に結核の標準治療を提供すると共に、通常の健康教育の一環としての禁煙指導を行った。一方、介入地域の保健所では、結核患者に結核標準治療を提供すると共に、介入として禁煙カウンセリングを行う。禁煙カウンセリングは、UNIONが推奨するABC禁煙カウンセリングの手法を導入した。2018年度は、上記介入・非介入地区における情報収集を開始し、2017年4月~2018年8月に収集された情報の整理と分析を行った。 介入地区に1,608人、非介入地区に940人が登録され、両地区間における性別・年齢階層別の分布に有意差はなかった。登録時には、両地区間で喫煙率に有意差を認めなかったが(P=0.09)、結核治療開始2ヶ月後、6ヶ月後でそれぞれ介入地区における喫煙率が低かった(各P<0.001)。ロジスティック多変量解析でも同様の傾向を認めた。家庭における受動喫煙率も、同様の傾向を示した。一方、2017年に登録された1,374人の結核患者治療成功率は、両地区間で有意差を認めず(72.8% vs. 77.5%, P=0.147)ロジスティック多変量解析でも、同様の傾向を示した(P=0.227)。 UNIONの推奨するABC禁煙カウンセリングは、フィリピンの貧困地区における結核患者集団において、喫煙率の低下・家庭における受動喫煙の低下に有用であり、結核治療に負の影響をもたらしてはいなかった。
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