本研究の第一義的な目的は日本における先駆的実例の一つとして麻酔科診療における医療の質・安全性の評価法の一例を提示することであった。そしてこの目的を達成するためになされた仕事の集大成が昨年度にロシア・サンクトペテルブルグで開催された国際シンポジウムで我々が発表した内容であった。今年度の研究活動の主たる焦点はこの研究内容の論文化にある。個別の医療行為の効果、安全性、効率、患者と医療従事者との関係、患者満足度・苦情、医療の経費、収益、費用対効果、病院内および地域内における各部門の機能、地域における部門・病院の評価・評判といったさまざまな観点から麻酔科および周術期の診療を検討し、さらには医療の質の改善に向けての取り組みに関する現状を調査した。主な結果としては、医師と看護師は個別の医療行為の安全性を最重要と考えていることが判明した。さらに、職種間における優先順位の相違や優先順位と実際の取り組みとの不一致など興味深い知見が得られ、これらの結果は統計的に有意とみなされた。国内外の研究者との議論も終了した。 さらに、未発表ながらも本研究課題に派生する研究として、国際臨床試験登録プラットフォームInternational Clinical Trials Registry Platform、以下ICTRP)に登録された臨床試験のうち、麻酔科領域の臨床試験に関して実施地域別に現状を明らかにした。研究結果としては、2005年から2018年にかけて登録された世界全体の麻酔関連臨床試験10429件は単調増加傾向を示し、地域別推移にも有意な差を認めた。2010年以降に登録数の増加が著しいのはインド13.8%(n=1435)、イラン11.6%(n=1212)、中国11.1%(n=1167)であった。このICTRPを用いた研究は対象を疼痛、臨床モニターに拡張しており、それぞれに興味深い知見を得ている。
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