本研究の目的は、医療行為の第一段階には目に見える行為そのものではなく、その前には医療者の感情に強く支配される意思決定プロセスが存在することに着目して、薬物治療における行為の前の医療者の思考の段階からの感情を分析して可視化し、感情とエラーとの連関を明らかにする薬物治療エラー分析の手法を提案することであった。日本医療評価機構の医療事故情報収集等事業による実際のエラー事例を用いて、薬剤と医師、薬剤と看護師、薬剤と薬剤師を検索語として収集し分析を行った。エラー事例報告によるエラー概要のコメントより医師の感情についてテキストマイニングを用いて感情分析を行った。さらに、薬物治療エラーと感情の連関について分析を行い可視化した。分析結果として、エラー内容については、過剰投与が最も多く、次いで処方量間違い、薬剤間違いの割合が有意に高いことが認められた。エラー概要のコメントにおける感情については、ネガティブが最も多く、次いでポジティブの感情が有意に高いことが認められた。ネガティブ感情としては、恐れ(Fear)、嫌悪(Disgust)、悲しみ(Sadness)、驚き(Surprise)、怒り(Anger)が抽出(重複あり)された。その中で恐れが最も多く、次いで嫌悪、悲しみが有意に高いことが認められた。平成30年度以降においても、医療職種や調査件数を増やした詳細な分析を進めるとともに、分析方法の有用性について検証を行うことが必要であると考えられる。
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