研究課題/領域番号 |
16K09192
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研究機関 | 常葉大学 |
研究代表者 |
新原 寿志 常葉大学, 健康プロデュース学部, 教授 (70319523)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 鍼灸 / 安全性 / 有害事象 / アンケート調査 / 卒後教育 / 研修会 |
研究実績の概要 |
鍼灸の有害事象の現状を把握するために開業鍼灸師を対象に調査を実施した(調査1)。また、鍼灸の安全対策に関する卒後教育の現状を把握するために、法人格を有する鍼灸関連団体を対象に安全性に関する研修会の実施状況について調査を行った(調査2)。 <調査1>iタウンページに登録の鍼灸院15,959件から無作為に6,000件を抽出しアンケートを送付した。有効回答数は1,081件であった。2010年以降の鍼の有害事象経験では皮下出血771名が最も多く、重大な有害事象は気胸19名(うち複数回3名)が最も多く、次いで折鍼・伏鍼10名が続いた。灸では意図しない熱傷(Ⅰ度熱傷386名)が最も多く、重大な有害事象では深達性2度熱傷30名が最も多かった。安全対策に関する研修会等への参加、院内研修会の実施について「していない」との回答は、各々664名と716名であった。B型肝炎ワクチン摂取済は283名であった。 調査の結果、施術上避けることが困難でかつ軽微な有害事象が上位を占めたが、気胸など重大なものも少なからず発生していた。その背景として、不十分な安全性教育ならびにハイリスクな施術者の存在が示唆された。 <調査2>鍼灸関連団体205団体に対しアンケートを送付し、返信数(有効回答数)は52団体(25.4%)であった。平成26年度から28年度の3年間に鍼灸の安全性に関する研修会を実施したとの回答は19団体(36.5%)で、そのうち研修会の開催数は3年間に1回が6団体と最も多かった。鍼灸の安全性に関する研修会を開講していない理由として「会員の関心や興味が低い」あるいは「開講しても受講者が集まらない」が16団体と最も多かった。 鍼灸の安全性に関する卒後教育を受ける機会は極めて少ないこと、また、この原因の一つに鍼灸師の安全性に対する関心が低いことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、平成28年度に実施予定であった法人格を有する鍼灸関連団体(鍼灸師会、鍼灸マッサージ師会、学会、協同組合等)を対象とした鍼灸の安全性に関する研修会の現状調査を実施することができた。平成28年度は、その代替調査として公益財団法人東洋療法研修試験財団に登録された研修会の調査を行ったが、その登録された研修会のほとんどは鍼灸関連団体が自前の研修会を(任意で)登録し認定を受けたものである。そのため平成29年度の調査では、調査対象が平成28年度の調査と少なからず重複したが、回収率が低かったこともあり、平成28年度の調査結果を補強する形となった。一方、平成29年度の調査では、平成28年度では調査できなかった内容、例えば、安全性に関する研修会を開催しない理由などを聴取することができ、鍼灸の安全性に関する卒後教育の改善策を考える上で大きなヒントを得ることができた。 加えて、本年度は、当初の計画通り、開業鍼灸師を対象とした鍼灸の有害事象経験に関する調査を実施することができ、論文などで公表されない鍼灸の有害事象の一端を明らかにすることができたと考えている。 以上のことから研究はおおむね計画通り順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、平成28年度と平成29年度の調査結果の公表(学会発表ならびに論文化)を行う。加えて、法人格を有する鍼灸関連団体(鍼灸師会、鍼灸マッサージ師会、学会、協同組合等)を中心に、重大な有害事象あるいは稀な有害事象を収集するためのシステムを提案する。 鍼灸の安全性を高めるためには、まず第一に鍼灸の有害事象の現状を把握し、これを公表し注意喚起を行うと共にその防止策を提言する必要がある。有害事象の現状把握は、論文や会議録が一般的であるが、出版バイアスの問題があり公表されないものの少なからず存在することが予想される。また、現在、公益社団法人日本鍼灸師会や各都道府県の鍼灸師会が実施している紙ベースによる自己申告では、そのシステムが必ずしも十分に周知されていないこともあり、回収率は低いように聞いている。また、集計や解析にも手間がかかるといった問題もある。そのため、今回提案するシステムは、企業や公的機関が利用するアンケートサーバーを用いて集計や解析による手間を削減する。また、本システムに参加する団体から会員に対して、調査への協力を求めるメールを定期的に案内してもらい回収率を高める。そして、この調査結果と防止策を団体あるいは直接会員へフィードバックすることにより卒後の安全性教育に繋げていくことを最終目的とする。将来的には法人のみならず鍼灸院を多数経営する企業の参加を求めることによりその調査規模を広げていく。 本年度は、公益社団法人 日本鍼灸師会および各都道府県の鍼灸師会ならびに公益社団法人 全日本鍼灸学会に本システムを提案し、試験調査までこぎ着けたいと考えている。そして、問題点を洗い出し、来年度以降、本格的な運用を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由として、開業鍼灸院および鍼灸関連団体を対象とした2つのアンケート調査において、当初予定していた回収率が低く返信費用が押さえられたこと、平成29年度に研究代表者が転職した現所属に大学院がなく、データ入力のためのアルバイト(大学院生等)を確保することが困難であったため謝金が低く押さえられたことが挙げられる。 次年度使用額ならびに請求した助成金は、鍼灸の有害事象情報収集システムのホームページ作成ならびにアンケートサーバーのレンタル料、斑会議費用(旅費含む)、本システムに参加を求める鍼灸関連団体の責任者との会議費(旅費含む)、学会発表費用(プレゼン機器、旅費含む)、論文作成費用(英文校正、文献複写、謝金等)に利用する。
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